「世界初」「日本一」にこだわる地方水族館が放つ異彩
マリーンパレス(大分市、橋本均社長)は、大分市長を引退後に上田保氏が初代社長として1964年10月に「世界初の回遊水槽」という画期的なアイデアで開館した民間水族館。規模は現在の3分の1程度だったが開業後10年間は、毎年100万人を超える入館者を誇る日本一の水族館として名をはせた。2004年には大分マリーンパレス水族館「うみたまご」として全面リニューアルオープンし、128万人の入館者を呼び込んだ。
経営方針は“常に独自のユニーク性を持ち、よそとは競わない”を軸とする。魚が回遊できるドーナツ型の水槽をはじめ、日本初のラッコのバスケットボールショー、水中餌やりなど、魚や動物たちの習性を生かした曲芸を披露して業界を引っ張ってきた。
01年8月に第3代社長に就任した橋本社長もショーの派手さや規模の大きさ、動物の種類、設備の豪華さといったカネ(資金力)の勝負はせず、「世界初」や「日本一」にこだわる。常に新しい試みにチャレンジし、オンリーワンを目指さなければ「地方の水族館は生き残れない」(橋本社長)からだ。
当初から「ふれあいの水族館」として、歴史と伝統のアイデアと、別府湾という絶好のロケーションを生かしてきた。15年に新しく作った「あそびーち」は、動物と入館客が同じ場所で共に過ごす「空間共有」を大事にする。動物たちの日常をそっと見守る感じだ。プールサイドに近づくとイルカもあいさつしに来る。ほかにもナマケモノ、アルマジロやペンギン、オットセイと触れ合える。
新型コロナウイルス感染拡大以前は年間70万人の来館者があり、安定した入場者数だったが、コロナ禍の3年間は赤字経営に陥った。「お客さんはまだ9割しか戻ってきていない。23年5月期決算で黒字に戻り、これからが再スタートだ」(橋本社長)。海外客は3―5%程度で、まだ拡大の余地もある。
人手不足の悩みはどの業界も同じ。飼育員に憧れる人は多く、水産系の大学や専門学校を卒業した人材を採用するも、現実と夢の落差が大きく長続きしないのが実情だ。だが、飼育員こそが動物と客を取りもつ重要なファクターでもある。生物の命がかかる仕事のため、指導も厳しくなるが、その分だけ仕事のやりがいがある。
「我々の役割は、これからの成長産業でなくてはならない」と橋本社長は考える。生物の命、心、感情を実感できる場所が人間には必要で、それが水族館だ。だから「観察しよう、ではなく、動物と仲良くなろう!」と呼びかける。
24年は創立60周年、うみたまご開業20周年の年となる。今、記念事業として新たな仕掛けを考え中だ。(東九州支局長・大塚久美)
【投資会社の目線/大阪中小企業投資育成・九州支社 楠瀬巧主任】「動物と遊べる水族館」として、水族館界で異彩を放つ存在。イルカやセイウチなどのショーはもちろんアクロバティックで心躍るが、その過程である訓練段階にもフォーカスを当てるなどユニークなアイデアにあふれた水族館である。来年はうみたまご開業20周年。どんな仕掛けが見られるのか非常に楽しみだ。