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需要底堅い鍛圧機械…人手不足・脱炭素対応への進化を追う

需要底堅い鍛圧機械…人手不足・脱炭素対応への進化を追う

アイダエンジニアリングは相模大型専用工場(相模原市緑区)の一部を開放し、高速プレスの組み立て場所として整備した

鍛圧機械各社が人手不足や環境負荷低減などの社会課題の解決に力を入れている。ガイダンス機能などで熟練技能者並みの加工を支援して人材を受け入れやすくしたり、既存の機械を最新機能に更新し続けることで高い生産性を維持したりするなど取り組みは多彩だ。労働人口の減少やサプライチェーン(供給網)の組み替えなどで需要は底堅い。省人化や脱炭素への貢献といった付加価値の提供が競争力を左右しそうだ。

国内の製造業では若年層を中心に担い手不足が続く。2023年版ものづくり白書によると、製造業の若年就業者数は02年から12年ごろまで減少基調が続き、以降はほぼ横ばいで推移する。22年の同就業者数は255万人と、20年前の02年と比べ約3割減少した。

鍛圧機械の納入先となる板金加工業者も人手の確保に悩まされ続けており、人件費の上昇も経営を圧迫する。東京都内で精密板金加工事業を手がけるある経営者は「生き残るためにも生産の自動化や省人化は欠かせない」とし、差し迫った課題と受け止める。

こうした声を受けアマダは、音声操作やガイダンス機能を備えた板金曲げ加工機「EGB―6020ATCe」を投入。未経験者でも熟練技能者から指導を受けているように作業でき、人材の早期戦力化を支援する。

アマダの自動金型装置付き板金曲げ加工機「EGB―6020ATCe」

「アムエヌシー、スタート」。製造現場で作業者がこう呼びかけると同加工機は反応し、足元のペダルを踏むと動き出す。

次にあらかじめ入力した加工プログラムに沿って、金型と加工対象物(ワーク)の位置を固定する治具が自動で所定の位置に移動。治具が映し出された目の前のモニターを見ながら、拡張現実(AR)技術で赤く表示された位置にワークを合わせ、再びペダルを踏むと加工ができる。

曲げた角度はセンサーで自動計測されるため、作業者は同様の手順で各工程を進めるだけで、最終的に図面通りの加工ができる。従来は曲げる順番を想定し、工程ごとに金型を交換しながら作業を進めるため、技能の習熟が不可欠だった。同社担当者は「誰もが安心して熟練技能者のような加工ができる」と強調する。

トルンプ(横浜市緑区)は板金曲げ加工機「トルベンド センター7020」を日本で発売する。回転式部品マニピュレーターが人に代わってワークを目的の加工位置に自動でセットし、金型も交換を含めて所定の位置に自動で設定。配電盤などの箱形の部品を自動で加工できる。高梨真二郎社長は機械の中央部で加工するため安全性が高く、「加工プログラムを設定できれば未経験者でもボタン操作一つで作業できる」と自信を示す。

村田機械は板金曲げ加工機に、金型自動交換装置や作業者支援システムを組み合わせて作業者の負担を軽減する。作業者の目の前に図面などの必要な情報を表示して直感的な作業を可能にした。「『間違ってしまうのでは』といった不安からオペレーターを完全に解放する」(村田洋介副社長)ことで、生産性向上に貢献する。

三菱電機の「ファイバーレーザー加工機GX-F120」

部材の調達から製造、廃棄まで製品ライフサイクル全体で環境負荷を低減する取り込みが進む。三菱電機はファイバーレーザー加工機の旗艦機種「GX―F」シリーズで、機能を毎年更新する新たなコンセプト「エバーネクスト・ストラテジー」を打ち出した。生産性向上を中心に新技術を毎年提供し、GX―Fの利用者は後付けでいつでも新技術を取り入れたり、新たな機能に更新したりできる。初年度となる23年度は人工知能(AI)を活用した制御技術や厚板切断技術を投入し、材料の歩留まり向上などに貢献する。

これまで新技術を導入するには最新機種に買い替える必要があったが、田代勝産業メカトロニクス事業部事業部長は同コンセプトで「最新の生産性を備えたGX―Fを使い続けることができる」と指摘する。新たな技術が生まれる中、生産性の劣る加工機を使い続けることで環境負荷は蓄積されるとも言える。脱炭素を背景にこうした取り組みが広がるか注目される。

二酸化炭素(CO2)排出量の削減が期待される電気自動車(EV)では、アイダエンジニアリングがEV用モーターコア専用の高速精密プレスラインの販売を本格化する。ラインの核となる高速精密プレス機だけでなく、コイルからワークをプレス機に供給するアンコイラーや転積装置など周辺装置も含めたシステムとして一括して提供する。プレス機の前後でワークを送り出すフィーダーでは独自のノウハウを生かして最適なサーボモーターを開発し、「送り速度は従来比30%増の毎分130メートルを実現した」(鈴木利彦社長)。生産性の向上により世界的なEVシフトで高まる旺盛なモーターコア需要に対応する。

ヤマザキマザックは消費電力をCO2式レーザー加工機と比べ数分の1に抑えられるファイバーレーザー加工機へと全面的に移行。ファイバー機は環境負荷低減につながるだけでなく、CO2式に比べ切断面の品質が高くなるため、「バリ取りなどの2次加工が不要になり省力化につながる」(山崎高嗣社長)。コマツ産機(金沢市)は水中での切断が可能なファイバーレーザー加工機を提案。北出安志社長は「ワークの温度上昇が抑えられ、切断不良や歩留まりの改善、汚染物質(ヒューム)の発生も抑制できる」と強調する。

日本鍛圧機械工業会(日鍛工)は23年の鍛圧機械の受注額が、過去20年間で3番目の高水準だった22年とほぼ同等と予想する。米国ではインフレに伴う設備投資の様子見の影響、中国では景気悪化などが懸念される。一方、生産性向上や自動化への引き合いは底堅く、供給網の見直しによる生産回帰の動きが「米国、メキシコ、日本でも見られる」(板金加工機メーカー幹部)という。こうした需要の背景にある人手不足や脱炭素に貢献する手段は多様で、各社には強みを生かした戦略が求められる。


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日刊工業新聞 2023年07月12日

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