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中外製薬が初のCVC、創薬底上げへ

中外製薬は中長期的な研究開発力強化に向けた投資を加速する。同社としては初のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を2023年中に設立する。規模は2億ドル(約280億円)で、ベンチャーや研究機関などが集まる米マサチューセッツ州に拠点を構え、早期段階の研究開発やIT技術など幅広い領域に投資する。国内だけでなく欧米地域でも積極的に投資をし、イノベーション創出を狙う。(安川結野)

中外製薬のCVCの投資は、三つの領域に焦点を絞る。①疾患の仕組みや原因の解明、データ分析技術②創薬基盤技術③人工知能(AI)やデジタル技術といった創薬力向上に貢献する技術―を対象とする。

奥田修社長は「自社の研究開発や既存パートナーとの枠組みを超えて、日本や欧米の優秀な起業家、また高いポテンシャルを持つ技術へのアクセスを強化し、オープンイノベーションの推進を目指す」と強調する。自社の研究開発機能から離れた領域や実用化に遠い技術にも視野を広げ、早期段階から技術獲得を狙う。

中外製薬は中期経営計画「TOP I 2030」で、30年には新薬創出の数を21年に比べて倍増を掲げる。リサイクリング抗体の技術を活用し創出した発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬候補「クロバリマブ」を6月に国内で承認申請したほか、26年以降も希少疾患などで自社製品の新規申請を計画する。

CVCの投資活動による創薬への効果について現状、奥田社長は「新規の治療標的分子などの探索は中計よりもっと長期的な成果となる可能性が高い」と説明する。そこで、デジタル技術やAIのように創薬を効率化する技術にも投資をし獲得、実用化することで、一刻も早い目標達成につなげたいとする。

CVCを活用した投資活動は、特に海外の大手製薬会社で活発化している。ベンチャーや研究機関との積極的な提携で疾患に対する理解を深め、開発力を強化する。また、ITを活用して創薬効率向上を狙う傾向にある。

一方で、日本の製薬会社は海外の大手製会社と事業規模が大きく異なる。こうした中、中外製薬はスイス製薬大手ロシュの傘下にあり、ロシュからの導入品による安定的な収入基盤を持つ。こうした財務基盤の強みも、CVCを活用した積極的な投資活動を後押しする。CVC設立によりさらに広い地域や領域を投資対象に入れ、自社の創薬力強化に取り組む。

日刊工業新聞 2023年07月05日

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