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「異色の存在」…核融合スタートアップが105億円調達に成功した意味

「異色の存在」…核融合スタートアップが105億円調達に成功した意味

京都フュージョニアリングのラボ

夢のエネルギー「核融合発電」の実現に向けスタートアップが開発を加速している。そうした中、国内で頭一つ抜きんでたのが、京都フュージョニアリング(KF、東京都千代田区)だ。三菱商事などの事業会社やベンチャーキャピタル(VC)から105億円の資金調達を実施した。KFは核融合関連の部品開発に特化する「異色の存在」だ。調達資金で研究開発強化や人材確保を進め、グローバル展開を狙う同社の戦略を探る。(小林健人)

「核融合スタートアップは『カンブリア紀』のようだ」。KFの長尾昂最高経営責任者(CEO)は話す。動物の多様性が拡大した時代のように、多くの核融合スタートアップが生まれている。

核融合をめぐっては日本や米国、欧州など世界7極が参加する国際熱核融合実験炉(イーター)プロジェクトが約20年前に始まった。しかし国家間の調整に時間を要し、実験開始は予定よりも遅れた。こうした状況を横目に存在感を高めてきたのが、核融合スタートアップだ。現在その数は世界で30社以上に上る。イーターで採用されるトカマク型以外にも、直線型の装置を使った磁場反転配位(FRC)やレーザー核融合など非主流な方式での起業も目立つ。

その中でもKFは異色の存在。同社は核融合反応により生じた熱の取り出し、核融合炉の加熱装置など周辺装置、プラントエンジニアリングが主力だ。

多くの核融合スタートアップは核融合反応を起こすプラズマに注力する。しかしプラズマだけでは発電できない。KFは発電に必要なプラズマ以外の技術を網羅し、核融合分野で不可欠なプレーヤーになろうとしている。核融合反応を起こす方法が異なっても、発電までのプロセスに大きな差異はないため、KFは多くの核融合スタートアップを顧客にできる立ち位置にいる。

同社が105億円の資金調達に成功したことは、日本の核融合開発において大きな意味を持つ。米国のスタートアップなどが、民間投資として数百億円から数千億円の資金調達に成功しているのに対し、日本では実現可能性が不明として核融合への資金供給は乏しかった。KFの資金調達は、核融合の産業化への兆しが日本でも見いだされたことを示す。

KFは産業化という目標に向かって加速する。長尾CEOは「核融合発電には非常に多くの要素が必要だ。炉の建設から運転、リスク管理など既存の産業から学んでいかないといけない」と語る。出資に応じた三菱商事や関西電力グループなどは、こうしたノウハウを持つ。「さまざまな領域の知恵が集まり産業化への道筋を作る。次の資金調達は関係性を強化するため事業会社が中心になるだろう」(長尾CEO)と展望する。

事業展開を進める上で最も重要なのは人材確保だ。すでに国内のプラントメーカーなどから多くの技術者を採用しているが、世界的に人材争奪戦が激しくなると予想される。

現在、核融合スタートアップの中で先頭に立つとされるのが、米マサチューセッツ工科大学(MIT)発のコモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS、マサチューセッツ州)だ。同社は2000億円以上の資金調達に成功し人材も引き寄せる。

CFSなどの有力スタートアップを念頭に、KFの長尾CEOは「技術開発を強化し、ニッチでも独自の強みを持ちグローバルに展開する。そうした体制を作らないと優秀な技術者の採用ができなくなる」と危機感を隠さない。

KFが開発を強化する「ジャイロトロン」

カギとなるのは、主力製品の「ジャイロトロン」だ。ジャイロトロンは、核融合炉に高出力のマイクロ波を発振し、プラズマを発生・維持する機能を持つ。同社は調達資金を使ってジャイロトロンの高度化を図る。多周波数帯を発信し、長時間運転できるようにする。

ジャイロトロン以外にも“ネタ”はある。中性子を受け止める「ブランケット」の開発で英国原子力公社(UKAEA)と協力関係にあり、三重水素を回収するシステムの開発ではカナダ原子力研究所と協力する。また米国や英国の子会社を通じ、グローバル展開を加速する。複数拠点で多くの製品を開発し、部品供給という面でも強みを磨く。

KFの事業計画としては24年中に、核融合模擬プラントを建設する。核融合反応は起こさず、模擬的に作った熱で発電し、部品の性能を検証する。多くの核融合スタートアップが、小さいながらも発電能力のあるパイロットプラントを30年代に建設する目標を掲げており、KFはそのタイミングで部品供給事業を確立する計画だ。

政府は4月に核融合の国家戦略を取りまとめた。多様な企業が核融合分野に参入できるよう協議体を設け、産業化に向けた取り組みを後押しする。KFの目指す方向は国とも一致する。核融合発電の実現に向け、同社の推進力に期待が集まる。

インタビュー

CEO・長尾昂氏

京都フュージョニアリングの長尾CEOに資金調達の狙いや事業展望を聞いた。

―大型の資金調達を実行しました。
「受注や開発の状況、コンプライアンスなどを含めて評価してもらった。商社やエネルギーなど多くの事業会社が参加してくれた点は大きい。我々は核融合産業を作ることを目標に掲げてきた。炉を作るには建設や運転などさまざまな要素が不可欠。株主からそうした知見を学び、事業を進める。次の資金調達ではVCではなく、事業会社が中心になるのではないか」

―海外の核融合スタートアップの開発状況をどう見ていますか。
「大きく二つ。一つが40億―50億円の資金調達を成功させている企業だ。最適な核融合炉の形状などをシミュレーションし、小型装置を製作している。実験で良い結果が得られれば400億円程度を調達をして大型装置をつくる。ここに我々の部品をどう組み込めるかどうかだ」
「もう一つは大型装置を製作したが、発電までの道筋を描けていない企業。追加の資金調達や事業展開が止まっているのではないか。核融合炉を動かすスキルは高いが、発電はそれだけでは成立しない。我々は核融合反応からの熱取り出しなどに特化しているので、協業できる点は多い」

―先行する企業は30年代のパイロットプラント建設をマイルストーンに掲げています。
「建設期間などを考えれば20年代後半に大きな受注が入ってくるだろう。今回の資金調達は20年代後半に向けて技術開発や人材確保するために使う。主力製品の『ジャイロトロン』の製造能力を高めることも必要。ニッチな部品の集合体のため、既存のサプライヤーだけでは大量につくることは難しい。我々自身が製造拠点を持つ可能性も視野に入る」

日刊工業新聞 2023年06月14日

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