【ディープテックを追え】「バイオモノづくり」で世界に羽ばたく
有用な物質を微生物に作らせる「バイオものづくり」。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現を見据えたキー技術として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は社会実装を支援する。微生物の全遺伝子情報(ゲノム)を読み取り、素早く改変することで実現しようとする試みが進む。
一方、これとは異なるアプローチで、バイオものづくりを実現しようとする企業がいる。ファーメランタ(石川県野々市)は微生物にさまざまな遺伝子を導入し、アミノ酸などよりも構造が複雑な物質を作らせる。開発を強化するためビヨンドネクストベンチャーズやAngel Bridge、Plug and Play Japanから約2億円の資金調達を行った。同社に戦略を聞いた。
起点は農業問題の解決
「この技術に出会ったとき、さまざまな物質を作れる未来が想像できた」―。ファーメランタの柊崎庄吾最高経営責任者(CEO)は力強く話す。
学生時代から国際協力に興味を持っていた柊崎CEO。ケニアにボランティアへ行った際、現地の農業問題を目にしたという。「農業生産がしづらく、栄養素が足りていない状態だった」。そこで、この問題を解決する方法として二つの考えが浮かんだ。一つが技術革新。もう一つは経済発展を促すことだった。
その後、就職した外資系の証券会社で問題解決の具体的な手段を見出す。「業務の一環で日本の食品会社が持つ発酵技術に関連した市場調査を進め時、アメリカに面白い会社を見つけた」。それが米アミリスだ。アミリスは微生物を使った化粧品原料などの製造を手がけていた。柊崎CEOは確信を得た。「これを応用すれば、ケニアで見た農業問題を解決できる技術革新になるのではないか」。すぐさま起業を決めた。
微生物で複雑な物質を作る
バイオものづくりはまず、ゲノム編集や人工知能(AI)などを用いて、有用な物質をつくる機能や、物質の大量生産を可能とする微生物を設計・構築する。この微生物が生成する物質から製品を作る。現在は「DBTLサイクル」という手法が注目される。DBTLサイクルはAIを使い、開発したい微生物の遺伝子を絞り込む。その遺伝子を実際に構築し、性能を評価する。この結果をAIに学習させることで、遺伝子の絞り込む性能を向上させる。これにより、微生物自身の持つ遺伝子を素早く改変し、有用な物質を作れるようにする。
ただ、柊崎CEOは「医薬品や化粧品の原料など、複雑な物質を作るには、このアプローチ(DBTLサイクル)では不十分だ」と話す。現在、微生物で生産されるアミノ酸などは、生命の維持に必要になる「一次代謝産物」だ。一方、ファーメランタは生命の維持には直接関わらない「二次代謝産物」の生産を狙う。同社は植物などから抽出することが多い二次代謝産物を、微生物で作ることで、コストを抑えながら環境に配慮したモノづくりができるとにらむ。
実現に向けて課題は多い。一つが生物システムの最適化だ。複雑な二次代謝産物を微生物に作らせる場合、導入するべき遺伝子は多岐に渡る。そのため、多くの遺伝子を発現させながら、代謝などを考慮した最適な生物システムを構築しなければならない。また、二次代謝産物は一次代謝産物から多くのステップを踏んで生成するため、収量を向上させる技術的ハードルは高い。
ファーメランタは共同創業者である、石川県立大学の南博道准教授と中川明講師の研究成果を生かす。すでに大腸菌へ20個以上の遺伝子を導入する方法を確立した。同時に多くの遺伝子を導入しながら、適切な遺伝子を発現させるノウハウや、たんぱく質を過剰に発現する耐性菌を保有する。柊崎CEOは「遺伝子の過剰発現により、遺伝子同士が干渉してしまう現象もコントロールできている」と力を込める。一次代謝産物のグルコースを入口にして複数のステップを通じ、テバインなどの二次代謝産物であるアルカロイドの生成に成功している。アルカロイドは麻薬のアヘンの主成分だが、高度の発酵生産技術が必要なため、不正利用は難しい。
今後は菌株の開発やスケールアップと並行して、量産化の体制構築を進める。発酵技術を持つ企業などと連携し、培養技術を確立し27年にも事業化を目指す。将来は自社工場などを設け、微生物由来の製品販売を視野に入れる。また、基礎生物学に強い人材を採用していくという。
柊崎CEOは「我々の技術は、先行する米国企業と比較しても差別化要素が多い」と話す。バイオものづくりという潮流を捉え、世界に羽ばたく。
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