世界初、トヨタが「液体水素」で24時間レース参戦…市販へ前進
トヨタ自動車の水素エンジン開発が、新たなステージに上る。26―28日に富士スピードウェイ(FSW、静岡県小山町)で行われた24時間耐久レースに、世界で初めて液体水素を燃料とした車両で参戦を果たした。海外のレースでも水素エンジン車での参戦が認められることに。本格始動から3年目。市販に向けた技術の前進に加え、社会実装の動きが顕著になりつつある。(編集委員・政年佐貴恵)
液体水素は、これまでの気体水素よりも搭載量を増やせ、満充填時の航続距離を約2倍に延ばせる。一方、タンク内の温度をマイナス253度Cに保つ必要があるなど、難度も高い。当初は3月のレースで投入する予定だったが、水素漏れによる車両火災で断念。配管の設計などを改良して安全面を確保した上で、部品の見直しなどで約50キログラム軽量化して臨んだ。
さらに極低温環境を活用した水素ポンプ用超電導モーター技術で、京都大学、東京大学、早稲田大学と共同研究を開始。モーターの小型化などを狙う。東大の寺尾悠助教は「液体水素による超電導の事例はほとんどなく、知見を集めたい」と意気込む。トヨタの佐藤恒治社長は水素エンジン車の市販化時期は未定としたものの「未来を作る挑戦が大事。進める中で必ず(市販の)道が見える」と力を込める。
水素エンジンの動きは、世界にも広がる。世界3大レースの一つ「ル・マン24時間レース」を主催するフランス西部自動車クラブのピエール・フィヨン会長はFSWで会見し、2026年から水素エンジン車の参戦を認めると発表した。同じく水素を燃料とする燃料電池車(FCV)も加えた水素カテゴリーを設ける。トヨタの佐藤社長は「非常に大きな意味がある。前向きに考えたい」と、参戦可能性を示唆した。
国も動き出した。27日は水素社会推進議員連盟の小渕優子会長が水素エンジン車を見学。28日には、水素と二酸化炭素(CO2)を原料とする合成燃料を国内で初めて製造したENEOSがFSWで開いた説明会に、太田房江経済産業副大臣らが出席した。
トヨタの豊田章男会長から取り組みについて説明を受けた小渕会長は「世界が水素に注目し始めている中、日本が追い越されないよう後押ししなければいけない」と危機感を示した上で、「今、水素に特化した『水素推進法』のようなものが作れないか、議論している」と明かす。豊田会長は「資源のない日本では水素が競争力になる」と強調。「レース場でのスピード感ある取り組みはペースメーカーになる。気が付くと他国に抜かれていた、とならないよう国のリーダーシップをお願いしたい」と述べた。
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