魅力は山奥の無人駅…JR東海の秘境駅巡りが好調、ローカル線にぎわう
何もない辺境―と言うのは早計かもしれない。JR東海が山奥の無人駅を巡る観光列車に力を入れている。豊橋駅(愛知県豊橋市)から飯田駅(長野県飯田市)を結ぶ飯田線で「飯田線秘境駅号」を2010年から運行している。1日当たりの乗降客数が数人程度の駅が観光資源になる。5月の大型連休中には飯田線沿線の観光に特化した列車も初運行。ローカル線の存続が議論される中、観光利用で需要を喚起する先行事例となりそうだ。(名古屋・永原尚大)
「この先、第5世代通信(5G)はおろか電波も入らない秘境へまいります」。車内アナウンスが響いた。豊橋駅を出発した秘境駅号は、山やダムといった雄大な車窓を横目に、中部地方を縦断する天竜川に沿って北へ行く。
途中で停まる無人駅こそ秘境駅号の魅力。小和田駅(浜松市天竜区)や金野駅(長野県飯田市)の周囲には車が通れるような道路がなく、集落もない。そうした山奥の秘境へ行ける上、効率的に各地を巡ることができる。運行は春と秋の季節限定で、乗車率が9割を超える時もある。関西方面から訪れる人もいたという。
沿線自治体は魅力をアピールしたり特産品を販売したりして商機を狙う。平岡駅(長野県天龍村)で乗客に売り込んでいた一人は「旺盛な購買力に驚かされる。往復合わせ、約1時間の営業で8万円ほど売れた」と満足げ。JR東海の担当者は「地元と鉄道会社が同じ熱量で汗をかいて取り組むことで、息の長い取り組みにつながっている」と説明する。
23年の大型連休中には、飯田線沿線の観光に特化した「ディスカバー飯田線号」を投入。166人の席は9割が埋まったという。同社担当者は「飯田線の魅力を発見し続ける列車として、知名度の高い列車に育てる」と意気込む。
ローカル線は収支の面から廃止が議論される路線も少なくない。だが、飯田線のように路線や沿線の観光資源で誘客できる可能性は捨てきれない。鉄道会社と沿線自治体は一丸となり、存続に向けた方向性を探索し続ける必要がありそうだ。