資産運用に新風…SBI証券「ラップ300億円」達成、立役者の正体
SBI証券は投資家と投資一任契約を結んで資産運用・管理を行う金融サービス「ファンドラップ」に人工知能(AI)を活用し、預かり資産残高を伸ばしている。40種類以上の市場データの分析から機械学習、相場を先読みした投資配分まですべて人の手を介さず、AIで行う。結果、他社の関連ファンドよりも高いパフォーマンスを発揮。AIが資産運用の世界に新しい風を吹き込んでいる。
SBI証券はFOLIO(東京都千代田区)のプラットフォームを活用し、2022年3月末にAIを活用した「SBIラップ」の提供を始めた。それから1年を待たずに預かり資産300億円を達成。高いパフォーマンスとポイント付与のキャンペーンといった販促策の後押しで残高拡大につなげている。
SBIラップの運用成績はAIの高度な精度に裏打ちされている。AIで株価指数や為替、金利、原油、金など40以上の市場データを分析し、相場を先読みした上で、資産配分を毎月大胆に変更している。株式相場が不安定だった22年も金融環境を精緻に予測し、積極的な投資配分にしたことが奏功した。
例えば、22年7月時点で米国株式と不動産の保有割合を高めた。結果的に米国株と不動産が高騰率上位の資産となり、実績に結び付いた。同年10月の見直しでは先進国株式の割合を高めた一方で、新興国株式の割合を下げた。相場は読み通りの展開となった。
上原秀信執行役員常務はAIの強みについて「人の弱点が補強されている所にある」と分析する。人は分析・処理能力に限界があるが、AIはビッグデータ(大量データ)解析により高い予測精度が期待できる。感情や思い込みの影響を受けず、合理的な判断ができる。機械学習で継続的な改善も可能だ。
22年10月からはSBI新生銀行の窓口で、五つの運用スタイルから最適な投資配分を選択できる「SBIラップ×(クロス)」の提供を始めた。「AI運用で培ったノウハウを対面チャネルでも生かせば比較優位がある」(上原執行役員常務)と判断した。
今後、AI活用を広げる余地は「十分ある」(同)として、投資信託などで検討中だ。また一方で、プロのファンドマネージャーがアクティブ運用するファンドラップの商品化も検討しており、「お客さまの選択肢を増やす事が重要」(同)とみる。AIによる運用が加わることで金融商品の多様性が増し、投資家は分散投資効果の恩恵を受けられそうだ。(編集委員・川口哲郎)