クワガタが特定の微生物と共生する仕組み、名古屋大が明らかにした意義
森林には多くの昆虫が生息しており、微生物と共生していることが知られている。だが昆虫と微生物の詳細な関係が分かっているのはごく一部しかいないのが現状だ。名古屋大学の土岐和多瑠講師らは、クワガタとカミキリムシの一種について特定の微生物との共生の仕組みを明らかにした。昆虫が微生物を貯蔵・運搬する特別な体の構造が分かり、生物多様性の維持の成り立ちの解明につながると期待される。(飯田真美子)
木材はセルロースやリグニンなどの生物が体内で消化しにくい成分で構成されており、ほとんどの昆虫は自力で木材から栄養を得られない。そのため微生物と共生して木材の分解を助けてもらい、昆虫が利用できる物質に変えることで栄養を摂取していると考えられている。その鍵となる共生器官が幼虫の消化管にある粒状の「マイセトーム」や、メスの産卵管付近に見られる膜質チューブ状の「マイカンギア」だ。だが微生物との詳細な共生関係が分かっているのは一部の昆虫だけであるのが現状だ。
研究グループは、微生物との共生関係が解明されていないクワガタムシの一種「ネブトクワガタ」に注目。メス29頭を調べると、半数以上のマイカンギアには木材の消化を助ける酵母が存在しないことが分かった。酵母を持つ個体を取り出して解析すると約20種類の酵母が存在し、共通する特定の酵母は見られなかった。
そこで成虫が群がる樹液と幼虫が食べる木材を分析すると、どちらにも共通する酵母はないがマイカンギア由来と同じ種類の酵母が含まれた。ネブトクワガタの幼虫は木材で育った後、羽化して木材由来の非共生酵母がマイカンギアに混入する可能性が高いとみられる。さらに成虫になると樹液由来の非共生酵母の混入が増加するという共生の過程が考えられる。
別種の昆虫も研究を進め、カミキリムシの一種「ヨツスジハナカミキリ」を調査。幼虫と成虫を解剖して共生器官を調べると共通する特定の酵母が存在し、卵の表面からも検出された。酵母はヨツスジハナカミキリの親から子へ受け継がれ、子はマイセトームに酵母を貯蔵しながら成長すると考えられる。成虫は自身が育った木材で酵母をマイカンギアに取り込み、産卵場所まで運ぶとみられる。
共生器官から発見した特定の酵母が木材の成分を分解できるかを培養実験で調べると、木材に含まれる難分解性成分であるキシロースやセロビオース、キシランを分解できることが分かった。同酵母は木材を食べる幼虫の成長に関わることが明らかになった。
木材を食べて成長する昆虫は多いが、共生する微生物との関わり方は種別によって異なる。木材を酵母とともに食べることで枯れ木などの分解にもつながるため、昆虫と微生物の共生関係が森の循環の一端を担っていると言える。これらの共生関係を理解することができれば、森林再生などに向けた技術開発につなげられる。