G7会合の主題に…オープンサイエンスが科学の商業化を加速させている
オープンサイエンスが科学の商業化を加速させている。オープンサイエンスは誰もが学術情報に自由にアクセスでき、研究活動に参加できるようにする取り組みだ。アクセス面では学術論文の費用負担、参加面では研究データの二次利用が課題になっている。どちらも市場を寡占する学術出版社が優位にあり、オープンサイエンスの理念と必ずしも一致しない商業化を押し進める。有力な学術出版社を持たない日本は研究データに活路を見いだす。(小寺貴之)
「メーンテーマはオープンで発展性のある研究エコシステムの実現」―。内閣府の高市早苗科学技術政策担当大臣は先進7カ国(G7)科学技術相会合の議題について、こう説明する。G7科技相会合ではオープンサイエンスが主題として取り上げられる。
研究論文が載る学術誌は価格が高騰し、日本の大学は重い購読料負担に苦しんできた。国内の大学が払う購読料は2022年度が408億円。本来なら公的な資金から得られた研究成果は広く社会に還元すべきだとして、誰もが無料で論文を読めるオープンアクセス(OA)を推進した。
当初、出版社はOAに反対していたが研究者からOAのための掲載料を徴収するビジネスモデルを開発し、推進側に回った。こちらも一報500―5000ドルと高騰している。国内の大学が払うOA掲載料は20年が57億円と推計されている。購読料と掲載料の二重取り状態となり、大学と出版社の間で契約見直しが進んでいる。
そこで有力学術出版社を抱える英国などは研究者へ直接掲載料を支援するゴールドOAを進める。国として研究者と出版社を買い支える仕組みだ。資金力が論文発表や読まれる機会につながり、研究者や研究分野で格差を生むリスクがある。
対して米国と日本は大学などの機関リポジトリで著者最終稿を公開するグリーンOAを進める。これは学術誌に掲載された論文の一歩手前の著者最終稿が公開される。そのため出版社にとっては呼び水として機能し、容認されている。G7の中でも思惑が入り交じる状態にある。
日本にとっては学術誌での勝負は決してしまった。まだチャンスが残されているのが研究データのオープン化だ。文部科学省科学技術・学術政策研究所の赤池伸一上席フェローは「研究データでは日本は世界に先行できている」と説明する。
国立情報学研究所を中心に研究データの基盤システムを整えてきた。情報学研は欧州オープン・サイエンス・クラウドと連携し、データの相互活用環境を整える。G7科技相会合では論文とデータの即時オープン化を打ち出す予定だ。
一方でデータを利用して収益化する研究支援ツールでは学術出版社がベンチャーを買収してサービスをそろえた。最大手の蘭エルゼビアは先行研究調査から実験解析、執筆投稿まで研究ワークフローのすべてを網羅するツール群を整えた。ストレージ代のかかる研究データは研究機関などに保管させ、データを使いこなすためのツールやサービスで収益化する可能性がある。
研究データをめぐる競争でも有力出版社は優位な立場にいる。勝負が決する前に手を打つ必要がある。