EV・再生エネ拡大で「蓄電池人材」争奪戦、産学官新組織が立ち上がった
脱炭素社会に向け電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及が進む中、キーデバイスとなる蓄電池が注目されている。蓄電池の工場など全国有数の産業集積がある関西でバッテリー(電池)人材育成を図ろうと、産学官で構成する「関西蓄電池人材育成等コンソーシアム」が立ち上がった。3月に同コンソーシアムはアクションプランをまとめ、2024年度から工業高等専門学校向けなどを対象に教育プログラムを開始する。(大阪・広瀬友彦)
蓄電池人材コンソーシアムは国が22年8月に発表した「蓄電池産業戦略」に基づき、関西で人材育成・確保の実践モデルを作ろうと発足した。近畿経済産業局と電池工業会、電池サプライチェーン協議会が事務局を務め、電池メーカーなど産業界、教育機関、自治体・支援機関の41者が参画する。
「人材育成で最大限協力する」―。トヨタ自動車とパナソニックが共同出資する車載電池会社、プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES、東京都中央区)の山口豊経営戦略本部HR戦略・業務支援部長は強調する。EV市場拡大で電池メーカーの動きは激しい。PPESも急ピッチで人員を増やし生産拡大中だが「製造系を中心に人材獲得は苦労している」(山口部長)とする。
教育プラン、トヨタ系が協力
蓄電池コンソーシアムでは、複数の電池メーカーなどへのヒアリングから、関西と周辺地域で「今後5年間で計約1万人の(蓄電池関連人材の)雇用が見込まれる」と公表した。PPESの山口部長は「1万人雇用は挑戦的な目標。電池業界が協力し、若い人らに仕事の魅力を訴えなければ」と自覚する。コンソーシアムを通じ教育プログラム開発や工場見学の受け入れなどで協力体制をとる。
教育界も動く。24年度から複数の学校で電池人材育成プログラムの実施が計画されるが、大阪公立大工業高専は年内に同プログラムの試行・検証を行う。中田裕一校長補佐は「当校のキャリア教育に組み込む形でプログラムを取り入れる。まず1年生の授業の一部でバッテリーの講義と実習を行う」とする。「当校だけでは難しいが、産業界と“共育連携”し生徒に興味を持ってもらうカリキュラムを作りたい」(中田氏)とし、電池エンジニアの育成に挑む。
最先端の電池開発を進める産業技術総合研究所関西センター(大阪府池田市)も電池の製造実習で協力する。施設内に高校・高専生向けと大学・大学院生向けの二つの電池実習室を24年度稼働を目指し整備する。特に高校・高専生向け実習は、PPESが姫路工場で新入社員向けに行う実習プログラムを参考にしていく。手を動かしリチウムイオン電池の製造工程全体を体感できる内容を検討中だ。
産総研の辰巳国昭関西センター所長は「国内の電池産業基盤の強化へ、研究以外に人材育成にも力を入れないといけない」と強調する。
今回の蓄電池人材のアクションプランでとりまとめの中心を担ったのは近畿経産局だ。次世代産業・情報政策課課長(当時)の黒木啓良氏は「人材育成をめぐる議論は当初、産業界と教育界でかみ合わなかった。会合を重ね互いを理解し、1年弱で実行計画をまとめられたのは大きい」と振り返る。関西で電池人材育成の先行モデルを実践し全国に広げられるか、挑戦は続く。
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