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原燃料高再び…原油、追加減産で相場底堅く備え必要に

原油の国際相場が底堅さをみせている。2022年の高騰はピークアウトしたものの、主要産油国が4月に追加減産を表明して需給の引き締まりが意識さた。ニューヨーク先物は4月にバレル当たり80ドル近辺を推移し、コロナ禍前の2019年末比では約3割高い。供給網では既往の原燃料高を川下へ転嫁する動きが続く中、川上では再びコストが高止まりしようとしている。企業では引き続き不安定な市場環境に備えを要しそうだ。

消費抑制作用、景気の重荷

ニューヨーク市場の米国産標準油種(WTI)先物は、3月に欧米の金融不安を背景にバレル当たり65ドル近辺まで下げたが、4月には同80ドル近辺へと持ち直した。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどでつくる「OPECプラス」が23年末まで日量200万バレルの協調減産を続ける中、4月初頭に一部参加国が同116万バレルの自主的な追加減産を発表したためだ。

年後半には、新型コロナウイルス感染対策を緩めた中国の需要復調で国際需給は供給不足に陥るとみられる中、追加減産の表明は需給タイト化を市場に強く意識させた。ロシアが表明済みの日量50万バレルの追加減産も足すと、減産幅は世界需要の約4%相当の同366万バレルまで膨らみ、相場を下支えしている。

一方、原油高は需要を抑制する方向にも作用するため、一本調子の相場上昇とはなりにくい。国際エネルギー機関(IEA)は4月中旬公表の月報で「生活必需品の値上げに直面した消費者は支出をさらに減らす必要が生じるだろう」とし、「これは景気回復と経済成長にとって悪い兆候だ」と指摘した。

高インフレの抑制に向けて米国などの政策金利が高止まりしやすいことも、相場の圧迫材料となる。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員は「原油相場は再び強弱材料の綱引きで膠着した状態に戻る可能性がある」とみて、23年のWTI先物はこの先、バレル当たり70―90ドル近辺での推移を見込む。

ただ、4月の同80ドル前後の水準は22年の高値比で4割程度安いものの、コロナ禍前の19年の同50―60ドル近辺に比べ依然として3割以上高い。原油高の継続が引き続き景気の重荷となるリスクに警戒を要する。

企業物価の高止まり注意

国内の企業間取引の物価上昇率は、原油高のピークアウトなどを映して鈍化したが、依然として高い伸びを示している。日銀の3月の企業物価指数(速報値)の総平均の上昇率は前年同月比7・2%と3カ月連続で減速したが、コロナ禍前の18―19年は同マイナス1―プラス3%近辺にとどまっていた。

22年前半まで物価高のけん引役だった「石油・石炭製品」の23年3月の寄与度はマイナス0・2%に沈んだが、川下の最終財(輸出除く)の上昇率は直近2月が前年同月比5・5%と高い。第一生命経済研究所の大柴千智副主任エコノミストは「生産フローの川下にあたる最終財ではこれまで遅れてきた価格転嫁の動きが残存している」とし、「エネルギー分野以外の物価上昇圧力はまだ大きい状態が続いていて、今後は企業物価の高止まりに注意が必要」とみる。

また、当面は前年の反動で石油製品は前年比マイナスで推移しやすいものの、足元では原油相場に底堅さがあるため川上の原燃料の物価水準は下がりにくくなっている。企業は価格転嫁の動きについていけなければ経営リスクが高まるため、警戒を要する。

帝国データバンクの4月公表のリポートによれば、3月の物価高に伴う倒産は67件と9カ月連続で過去最多を更新した。前年度比3・4倍の463件となった22年度の物価高倒産の業種別内訳では、トップの製造業が21%、建設業が19%と続き、要因別では原材料が37・4%、エネルギーコストが23・7%を占めた。

同リポートでは「コロナ禍で経営体力を消耗している状態が続く中、最後の追い打ちとして物価高の影響を受けた」ケースがほとんどだと指摘する。足元ではコロナ禍が落ち着きつつあるものの、引き続き原燃料コストの行方が注視される。

伸銅品生産、15カ月連続減 家電・建設需要鈍く

自動車や電子機器、住宅資材など用途の広い銅の需要は、景気動向を映す指標として注目されるが、足元ではその需要が振るわないほか、既往の原油高の影響も根強く残る。日本伸銅協会によれば、3月の国内伸銅品生産量(速報値)は前年同月比14・9%減の5万8780トンと15カ月連続のマイナスとなった。

最終用途となる自動車は販売が持ち直しているが、減産が長引いたことに伴う過剰な部品在庫が伸銅品受注を鈍らせている。さらに巣ごもり消費の反動減で家電向けが振るわないほか、「資材価格の高騰などで建築工事の計画が見直されていることで、建設向け需要が低調だ」(伸銅品流通業者)との声がある。

また、電力料金の高騰を受けて、伸銅品メーカーでは22年に続き23年4月も加工賃を引き上げる動きが目立った。伸銅品価格のベースとなる銅の国際相場が高値に張りつく中での価格上乗せは需要家にとって痛手となる。

目先はただちに需要が改善することは見込みにくく、市中では「伸銅品の生産量が上がるのは7―9月期ごろからという見方が多い」(日本伸銅協会調査部)という。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻の影響で相場や需要が大きく揺れ動く状況は解消しつつあるが、企業は引き続き不安定な市場環境に備えを要しそうだ。


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日刊工業新聞 2023年05月04日

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