ニュースイッチ

半導体製造に新潮流を作り出す、「ミニマルファブ」を知っていますか?

半導体製造に新潮流を作り出す、「ミニマルファブ」を知っていますか?

産総研臨海副都心センターのミニマルファブ拠点

巨額の設備投資を必要とする半導体製造。台湾積体電路製造(TSMC)などの半導体受託製造(ファウンドリー)ビジネスが製造領域の主役として台頭する一方、需要増などを理由に納期が長期化し、調達先が減産や生産調整に追い込まれる事態にまで発展している。このような状況を変えようと、産業技術総合研究所(産総研)が2008年から研究を続けてきた製造システムが「ミニマルファブ」だ。少量多品種の製造を実現し、半導体製造に新たな潮流を作り出そうとしている。

ミニマルファブは試作品などで利用されてきたが、量産品に応用すべく、22年12月に産総研の研究者が事業会社「ハンドレッドセミコンダクターズ」(千葉県柏市)を立ち上げた。社名には「多様な半導体を提供する」という思いを込めた。居村史人代表取締役は「あらゆる人々が半導体を設計・製造できる未来を作る」と説明する。

ミニマルファブは半導体の生産量がわずか1個だけでも製造できるシステムだ。これまでの大量生産を前提にした半導体製造と異なり、少量多品種の製造に特化する。

従来の大口径ウエハーを使わず、直径12.5ミリメートルの「ハーフインチウエハー」上に回路を形成する。製造装置の大きさは幅30センチ×高さ144センチ×奥行き45センチメートルで、この装置を露光などの製造工程ごとに利用する。メガファブ(巨大工場)で使う製造装置との併用も可能だ。それぞれの工程で使う製造装置の大きさが均一なため、装置同士を連結し、工程間の自動搬送もできる。

また、ハーフインチウエハーを密封するミニマルシャトルを備えており、クリーンルームが不要の製造工程を目指している。超微細な回路になる最先端半導体で活用するのは難しいが、センサーや微小電気機械システム(MEMS)などの製造で強みを発揮する。

設備最小限、ケタ違いの安さ

メリットの一つが設備投資の低減だ。通常、メガファブでの半導体製造は数千億円を超えるような設備投資を必要とする。一方、ミニマルファブが目指す投資額は、その100分の1から1000分の1程度。各装置が小型なため、大規模な工場用地を必要としないほか、回路形成に使う「フォトマスク」も不要なため、ケタ違いの金額で稼働できる公算が大きい。

また製造期間も大幅に短縮できる。大規模な半導体製造では、発注から納入まで大きな待機期間が発生する。ミニマルファブであれば、必要な時に必要な量の半導体を製造するジャストインタイムを実現できる。

この利点を最も生かせるのが、IoT(モノのインターネット)向けなどの少量多品種の半導体だ。居村代表取締役は「少量発注のため、ファウンドリーに委託できなかったような半導体も、ミニマルファブであれば対応できる」と話す。

産総研は08年にプロジェクトを始動して以降、製造装置やハーフインチウエハーなどの開発を進めてきた。同時に、17年には普及支援を目的に「ミニマルファブ推進機構」(茨城県つくば市)が発足したが、その歩みは緩やかだ。理由はミニマルファブでデバイスを作るプレーヤーを育成できなかったことにある。居村代表取締役は「製造装置やハーフインチウエハーは早い段階で商品化できた。一方でミニマルファブを使いこなす人材や企業を育てることができなかった」と打ち明ける。

ハーフインチウエハーを密封するミニマルシャトルを備えており、クリーンルームが不要の製造工程を目指している
IoTデバイスを収めたハーフインチウエハー

普及に向け、ハンドレッドセミコンダクターズが着目したのが、ラボにおける半導体の試作品製造工程と、ファウンドリーによる大規模な製造工程のギャップだ。試作から量産への移行には、需要予測や投資規模など複雑な経営判断が求められるが、ミニマルファブは試作品から量産品へスムーズに移行する目的で活用できる。ギャップを埋める用途で商用化できるというわけだ。

現在、同社は半導体の設計・試作から量産までを支援する活動を進めている。知見を共有することで、製造技術としての普及を目指すほか、試作品の改善スピードを速め、ミニマルファブを活用した量産品へつなげる。

進む設計ソフト開発

ミニマルファブで使える設計ソフトの開発も進めている。相補型金属酸化膜半導体(CMOS)向けのパッケージ設計に必要なPDK(プロセスデザインキット)を1年以内に用意する方針だ。また活用のハードルを下げるため、基本の回路設計をライブラリー化する考えで、まずは研究開発での利用を想定する。試作品製造は、産総研の臨海副都心センター(東京都江東区)やつくばセンター(茨城県つくば市)を活用する。

少量生産のデバイスを製造するユースケースの創出にも力を入れる。消費電力の関係から、プログラミング可能な集積回路(FPGA)では対応できなかったニーズを掘り起こす意向で、こうした設計やプロセス開発のサービスを提供し普及を目指す。「ニーズに合わせて、個別のデバイスを届ける体制を作っていく」(居村代表取締役)と力を込める。

現在は回路を形成する前工程やボンディングなどの製造技術について開発を終えた。今後は5年以内に、プリント基板で実装されるパッケージをハーフインチサイズに集積することを目指す。従来よりも小さい面積で半導体を実装し、消費電力を減らしながら、あらゆるデバイスに搭載できるようにする。

「我々がリーダーシップを持ってこの製造方法を広める主体になる」と強調する居村代表取締役

また普及を見据え、5年後にはハーフインチウエハーの製造を増やし、年産5万枚を計画する。将来は自社で拠点を持ち、製造を担うことも視野に入れる。居村代表取締役は「(推進機構に参加する)企業にとってミニマルファブは製造方法の一つに過ぎなかった。我々がリーダーシップを持ってこの製造方法を広める主体になる」と強調する。

大量生産、大量消費を前提とした半導体業界だが、ミニマルファブは必要な時に少量でも半導体を入手できる可能性を秘めている。一方で多様なニーズを持つユーザーの育成や需要の掘り起こしなど課題も多い。こうした中でも同社は、さまざまなプレーヤーが開発した半導体を自由に設計・製造する未来を見据える。

日刊工業新聞 2023年05月03日

編集部のおすすめ