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スマホ主回線契約で下降続く…MVNOは独自策に勝ち残りかける

仮想移動体通信事業者(MVNO)各社が独自色を打ち出している。オプテージ(大阪市中央区)はユーザーから商品アイデアを募るコミュニティーサイトを運営。イオンリテールは親会社イオンの経営資源を使い、ポイント経済圏を生かした施策を展開する。MVNO市場は大手携帯通信事業者が投入した格安料金プランや、“1円スマホ”といった携帯端末の安値販売の影響で低迷が続く。MVNO各社の差別化策の実効性が試される。(張谷京子)

大手格安プラン・短期解約増が影響

MVNO市場は低迷している。MMDLabo(東京都港区)が運営するMMD研究所の調べでは、スマートフォンの主要通信回線としてMVNOを契約している人の割合は、2023年2月時点で9・7%だった。19年9月の13・2%から下降傾向が続いており、直近の22年9月(9・9%)と比べても低下した。

背景にあるのは携帯通信市場の環境変化だ。NTTドコモKDDIといった移動体通信事業者(MNO)が格安の料金プランを投入したことや、楽天モバイルがMNOとして参入したことなどにより、低価格帯の携帯通信サービスの競争が激化。MVNOは武器としてきた価格優位性が薄れ、苦戦を余儀なくされた。22年7月には楽天モバイルが月額0円の料金プランを廃止し、同社の利用者の一部がMVNOへ流出。一時的に市場回復の兆しがみられたものの、この特需は終わったとみられる。

1円スマホの問題もMVNOの悩みの種になっている。特に、MVNOを苦しめてきたのが「ホッピング」行為による短期解約の増加だ。ホッピングとはMVNOの回線契約後、端末の大幅値引きを目当てに、MNOの回線に短期間で乗り換える行為のこと。スマホの転売目的でMVNOを契約・解約する利用者が増えた。

こうした行為は回線開通業務のコストの増加や商品の配送遅延など、事業にマイナスの影響を及ぼす。携帯通信サービス「イオンモバイル」を手がけるイオンリテールは、こうした被害に遭ったMVNOの1社。同社の短期解約数は、22年3月に過去最高の1万5000件以上に膨れ上がった。最近は総務省だけではなく、公正取引委員会でもこうした問題を指摘するようになり「直近はかなり収まってきた」(イオンリテールモバイル事業部の井原龍二氏)。

ただ、1円スマホ問題はかつて一度収束して、再び浮上した過去がある。19年施行の改正電気通信事業法により、端末と回線をセットで販売する際に、端末を大幅に値引きすることは禁止された。だが、通信契約とひも付かない端末の単体販売に関しては、値引きの上限が設けられなかった。この抜け穴を突いて、同問題による被害が21―22年に増加した。情報通信技術(ICT)業界の動向に詳しいMM総研(東京都港区)の横田英明取締役副所長は、転売やホッピング行為を「100%取り締まることは難しい」とみる。

オプテージユーザー交流注力 サービス改善

一連の状況を踏まえて、MVNO各社は独自性を追求したサービスの展開を強化する。オプテージの福留康和モバイル事業戦略部長は「今年は“ファンファースト”を徹底して、潜在的な不満を解決するサービスを追求していきたい」と意気込む。

同社は、自社の携帯通信サービス「マイネオ」ユーザーを「ファン」と称し、以前からユーザーとのコミュニケーションに力を注いできた。ユーザー同士やマイネオのスタッフが交流できるコミュニティーサイト「マイネ王」を運営。同サイトの一つの機能として、ユーザーからアイデアを募り、既存サービスの改善や新サービス開発につなげてきた。

オプテージは定期的にユーザーと対話する機会を設けている

この取り組みは16年に始め、累計1000件以上のアイデアを採用した。また、同サイトだけではなく、「オフ会」や「ファンの集い」など定期的にユーザーと対話する場も設けている。

イオンリテールイオンカードで支払い ポイント増量

イオンリテールが注力するのは、イオングループの経営資源を活用した“経済圏”戦略だ。イオンリテールはイオンモバイルの月額料金を、券面にイオンマークが入ったクレジットカード「イオンカード」で支払った場合に進呈する、イオンの電子マネー「WAON(ワオン)」のポイントを増量した。以前はワオンのポイントを、200円(消費税込み)につき2ポイントを付与していたところ、2倍の4ポイントに増やした。

イオンリテールは携帯通信サービスの乗り換えに関する相談を無料で受け付けている

イオンリテールの井原氏は「MVNOの中では、経済圏を意識した取り組みは我々しかできない。MNOに近いサービスを格安な通信サービスとセットで実現できるというポジションを、今後しっかりと築いていきたい」と語る。ポイントを軸に自社サービスで消費者を囲い込む経済圏戦略は、楽天グループなどが先行する。イオンリテールも、親会社イオンのグループ各社との連携が今後カギを握りそうだ。

また、販売をオンライン主体で行うMVNOが少なくない中、イオンリテールは店舗販売を手がけている。店舗の場を生かして、スマートフォンの無料メンテナンスサービスのほか、通信事業者の乗り換えに関する相談を無料で受け付ける「イオンのスマホ乗換え相談所」の展開も始めた。

ソニーネット通信品質すみ分け

他方、ソニーネットワークコミュニケーションズ(東京都港区)は携帯通信プランごとに、通信品質のすみ分けを行う戦略で顧客の取り込みを狙う。低容量のデータ通信量を安価に提供する「バリュープラス」、MNOと同等レベルの通信品質を目指した専用帯域を確保する「NEOプラン(ネオプラン)」といったサービスを用意している。

一般的にMVNOのサービスは昼時に通信の混雑で速度が低下しやすい傾向にあるが、NEOプランでは「第三者機関の調査によると、昼も夜もそんなに品質は落ちていない」(田中直樹MVNO事業室長)という。同社は「NEOプランW(ネオプランダブル)」を3月に発売。月間データ通信容量を、従来プランと比べて2倍の40ギガバイト(ギガは10億)使えるようにした。

>個人向け通信サービスにおけるMNOとMVNOの価格差が小さくなった環境下では、MVNOは今後も苦戦が続くとみられる。各社は差別化を推進し、勝ち残りにつなげられるかが問われる。

日刊工業新聞 2023年05月03日

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