【ディープテックを追え】エンジン開発で自動車並みにロケットを量産する世界作る
民間企業の宇宙進出により、小型人工衛星の打ち上げニーズが高まっている。一方、ロケットの打ち上げを提供する企業は限られ、全ての需要に応えられているわけではない。北海道大学発スタートアップのMJOLNIR SPACEWORKS(ミヨルニアスペースワークス、北海道札幌市)はプラスチックを燃料に使った、ハイブリッドエンジンを開発する。米倉一男最高執行責任者(COO)は「我々のエンジンで、ロケットを自動車並みに量産する世界を作る」という目標を掲げる。
国が長らく主導してきたロケット開発は、米スペースXを始めとするスタートアップによる開発に移ってきた。これにより、年間数回に限られていたロケットの打ち上げが大幅に増えた。
ただ、打ち上げ需要の増加は補え切れていない。背景には、複数の衛星が協調動作させ、システムを構築する「衛星コンステレーション」などのビジネス需要がある。国際連合宇宙局によれば、2021年に世界で打ち上げられた人工衛星の数は1809機で、10年前と比較すると14倍にもなる。足元では打ち上げ機会を待つ人工衛星が順番待ちをしている状況だ。
ミヨルニアはこの状況についてエンジンの開発による解決を目指す。米倉COOは「カギは垂直統合から水平分業への移行だ」と話す。
現在ロケットを製造する企業は多くの部品を内製している。特にエンジンの製造は複雑なため大量生産に向かず、ロケット製造の参入障壁になっている。同社は従来よりもシンプルかつ安価なエンジンを製造。ロケット開発企業に提供する。そのほかの部品も別の専業メーカーがロケット開発企業に納品するような体制を作ることで、ロケットの安価かつ大量製造を目指す。
同社は固体のプラスチックと液体の酸化剤を燃料に採用したハイブリッドエンジンを開発する。既存の液体エンジンに比べ、爆発の危険性を減らせる。プラスチックをガス化し、酸化剤と混ざることで推進力が得られる。さらに同社は、より大きな推進力を得るため、プラスチックと酸化剤を効率よく燃焼させる機構などを開発した。今後は無溶接の燃料タンクも開発し、従来よりもシンプルな構造の燃料噴射器などと合わせて、製造コストの低減につなげる。
北海道赤平市で行ったエンジンの地上試験は終了済み。24年に観測ロケットを、28年には小型ロケットを打ち上げる計画だ。実証試験などを通じて、ロケット部品の標準化を進める。
米倉COOは「ロケットを打ち上げたくても、自社で全ての部品を製造することに二の足を踏む企業は多い。我々のエンジンを使うことで多様なサプライヤーが宇宙事業に参画できるようにしたい」と力を込める。ロケットを自動車のように大量生産の工業製品にできるか。北の大地から挑戦は続く。
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