【ディープテックを追え】溶接技術で宇宙にインフラ建設
人間が地球以外に進出する要素が整ってきた。米スペースXなどがロケットを打ち上げる活動を加速させており、宇宙への移動がしやすくなる時代が近づいている。そうした中、宇宙に巨大な構造物を建設する構想が進む。Space quarters(スペースクオーターズ、東京都渋谷区)は材料の溶接によって宇宙でのインフラ建築を目指す。
従来、宇宙開発はいかに物や人を送り込むかという輸送の課題解決が中心だった。特にコストが課題だったが、国の研究開発の推進やスタートアップの登場によって、解消されつつある。
輸送のコストや制限の課題が解消される中、宇宙にインフラを築き経済圏を構築する構想が注目されている。民間企業が国際宇宙ステーションのような構造物を作り、宇宙旅行などのビジネスを生み出そうとしている。
一方、宇宙に運べる荷物の大きさは、ロケットに荷物を積載する「フェアリング」の大きさに依存する。住居などの大きな構造物を宇宙で作る場合、現在のモジュールを打ち上げる方法では難しい。そこで、スペースクオーターズはパネル材料を打ち上げ、溶接によって宇宙で構造物を作る。
宇宙で構造物を作れると、従来よりも体積を大幅に増やせる。スペースクオーターズによれば、JAXAと三菱重工業が開発する「H3ロケット」によって一度に打ち上げられる体積が20倍になるという。また、打ち上げ時にかかる重力などに対する耐性を考慮する必要がなくなり、構造物の設計の自由度が高まる。従来よりも簡便かつ安価に構造物を作れると見込まれる。これにより、スペースクオーターズは宇宙でのインフラコストを低減し、市場自体を拡大させることを目指す。
同社は材料の溶接に電子ビームを使う。大西正悟最高経営責任者(CEO)は「電子ビームは熱効率の観点から、宇宙で溶接する上で使い勝手が良い」と話す。地上でも利用されており、真空環境を整えるだけで使える点も大きい。
宇宙での溶接技術は旧ソ連や米国が実験した過去がある。その際は安全性や経済性の課題から実用化には至らなかった。大西CEOは「熱制御の課題はあるが、いかに実用化するかがメーンのテーマだ」と自信を見せる。電子ビームの開発はフランスのサクレ大学と協力して進めている。
また、過去の実験で溶接は人間が行っていたが、安全性などを考慮し、同社はロボットが担う。溶接するパネル材料の壁面をロボットが走行し、パネル同士を溶接して構造物に仕上げる。材料の位置決めを工夫することで、ロボットアームなど複雑な制御を要求される機構を回避する方針だ。
まずは開発する技術で静止軌道上に打ち上げる大型の通信アンテナを製造する。従来の衛星よりも高寿命かつ高周波数帯を使える点を訴求する。2023年に地上実証を始め、25年にも宇宙で実証する計画だ。
その後、有人構造物の開発を進める。28年ごろに宇宙で実証し、実用化を目指す。同社はこうした製造技術を、インフラ設備を建設したい企業に売り込む考えだ。大西CEOは「米国や欧州では宇宙がすぐ近くの存在になっている。日本からも次の宇宙ビジネスを作る企業を作っていきたい」と力を込める。
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