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「なぜ細工したのか」…ダイハツ「側面衝突試験」不正がトヨタグループに与えた痛手

「なぜ細工したのか」…ダイハツ「側面衝突試験」不正がトヨタグループに与えた痛手

会見する奥平ダイハツ社長

ダイハツ工業による側面衝突試験の不正発覚は、親会社のトヨタ自動車を含むトヨタグループへ新たな痛手となった。日野自動車豊田自動織機の排出ガス・燃費不正に続き、今回は安全の信頼性に及ぶ。トヨタは小型車に強いダイハツと、不正試験車が生産された東南アジアなどで協業を深めてきた。成長性の高い重要な新興国市場だけに、早期の信頼回復へ向けたトヨタの覚悟とリーダーシップが問われる。(大阪・田井茂、編集委員・政年佐貴恵)

「正規の設計で試験を受ければ合格していたのに、なぜわざわざぜ細工したのか。意図、真因を調査したい」。ダイハツの奥平総一郎社長は28日の会見で苦渋の表情を浮かべた。技術者が前席ドア内張り部品へ設計にない切り込みを加え、側面衝突試験を通過していた。経営責任については「真因を調査して全貌を明らかにしたい」と明言を避けた。

切り込みなどであえて弱い部分を設け、人体に危害が及びにくくする設計は珍しくない。しかしそれを正式の設計で隠し、法規に違反した。複数回設計も変更したことで安全性が不安になり、期限やコストに追い詰められ必要な報告や手続きを怠った可能性がある。不正した部門は実験と認証が一体で監視が働きにくかった。組織として見抜けず内部通報で発覚した。第三者委員会が組織的行為の有無も含め解明していく。

不正試験車は、国内で開発し2022年8月以降に生産したトヨタ車を含む9万台弱。東南アジアで生産し同地域や北南米に出荷していた。社内試験では安全基準を満たしているためリコール(回収・無償修理)せず、認可の必要な国では出荷を止めた。正規の設計で認可を得しだい再開する。国内車の不正はなかったが、ダイハツが海外主戦場とする東南ア事業は打撃となる。

トヨタは17年、ダイハツと新興国小型車カンパニーを設置。ダイハツの小型で廉価な技術力を取り込み、新興国で競争力を強めてきた。ダイハツの不正試験車種の一つ「ヤリスエイティブ」は、ダイハツのプラットフォーム(車台)にトヨタの知見も取り入れた。新興国戦略への影響が不安視される。

「トヨタ自動車を含めた問題として大変重く受け止めている」。相次ぐグループの不正にトヨタの豊田章男会長と佐藤恒治社長は危機感をあらわにする。佐藤社長は「法規に適合する実力がありながら不正が行われている点で根が深い」と、グループの認証業務を総点検する考え。豊田会長は「ガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)については(09年の)リコール問題を経験した私が責任を持って取り組む」と、陣頭指揮する。「ダイハツの得意分野を考えれば(協業の)大きな方向は変わらない」(豊田会長)。危機を乗り越えるため、トヨタのグループ指導力を強める。


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日刊工業新聞 2023年05月01日

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