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【ディープテックを追え】「レーザー核融合」実用化へ、国内外から注目されるスタートアップの現在地

【ディープテックを追え】「レーザー核融合」実用化へ、国内外から注目されるスタートアップの現在地

レーザー加工技術の実験

核融合の研究において米国ローレンスリバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)から驚きのニュースが届いた。2022年12月に行った核融合実験で、初めて投入したエネルギーを上回るエネルギーを生じさせた。投入エネルギーを上回るエネルギーの創出は長らく一里塚とされており、ブレークスルーと言える成果だ。

「(ローレンスリバモア国立研究所が成果を挙げたことで)レーザー核融合には早期の実用化が期待されるが課題も多い」。こう指摘するのは、日本でレーザー核融合の実用化に取り組むエクスフュージョン(大阪府吹田市)の松尾一輝最高経営責任者(CEO)だ。レーザー技術を他産業に応用しながら、最終的なレーザー核融合の実用化を目指す同社に戦略を聞いた。

レーザー核融合は重水素と三重水素の燃料に高強度のレーザーを当て、瞬間的に作ったプラズマで核融合反応を起こす。コイルの磁場でプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の核融合より小型の装置で実現できるとされる。

ただ、核融合反応を起こすレーザーの技術的な要求のハードルは高い。商用レーザー核融合炉では1秒間に10回以上、レーザーを燃料に照射する必要があるとされる。現在のレーザーは照射によって生じる熱を冷却する必要もあり、レーザーの出力を維持しながら連続運転することは難しい。また、数ミリメートルの燃料に数百本のレーザーをタイミングよく集めて照射しなければならない。レーザー核融合の実現には、こうしたさまざまな技術の統合が必要になる。

大阪大学レーザー科学研究所のレーザー「激光Ⅻ号」
大阪大学レーザー科学研究所のレーザー「激光Ⅻ号」

エクスフュージョンはレーザー核融合に必要なレーザー技術を開発し、産業に応用する。大阪大学レーザー科学研究所で研究されてきた技術を基に開発する。松尾CEOは「レーザーの特徴を生かせる産業に応用し、最終的に統合することでレーザー核融合を目指す」と話す。

まず狙うのが、削ったり、加工したりすることが難しい難加工材料を対象にしたレーザー加工だ。難加工材の加工には高強度レーザーが必要だが、レーザーのエネルギーが最も高くなる焦点を見極めながら、制御することは容易ではない。同社は高強度レーザーをレーザー加工用に応用できる制御方法を開発する。加工したい材料のパラメータから最適なレーザー制御を見つける。当面はレーザー加工機メーカーに制御技術をライセンスアウトする方針だが、将来はレーザー加工機の自社製造も目指す。合わせて、レーザーを制御する装置「ガルバノスキャナー」を従来よりも高強度のレーザー向けに開発する。

今後はレーザー制御技術を半導体製造に使う極端紫外線(EUV)露光装置や雷をレーザーで安全な場所に誘導する「レーザー誘雷」など、高強度のレーザーが必要な分野に応用する考えだ。松尾CEOは「レーザーの用途が高強度化すれば核融合に近づく。最終的にはそこを目指していきたい」と力を込める。

同社は国外からも注目される。レーザー制御技術を買われ、オーストラリア政府が主導する国際プロジェクトに参加している。レーザー技術の研究や装置開発を目的として22年から約10年間にわたり協力する。

同社は35年のレーザー核融合パイロットプラントの建造を目指すものの、「そう簡単ではない」(松尾CEO)と冷静だ。だからこそ実用化が近い分野にレーザーを応用する姿勢を重視する。「レーザーは応用範囲の広い技術。産業界にしっかり共有していく」と松尾CEO。その先には次世代エネルギー、核融合の実現を見つめる。

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