永田町が主導するAI戦略、日本の“勝ち筋”はどこだ
日本の人工知能(AI)戦略や政策が、霞が関から永田町主導へと移りつつある。米オープンAIの大規模言語モデル「GPTシリーズ」は社会に大きなインパクトを与えた。基礎研究も社会実装も米巨大IT企業を中心に進む。日本のAI施策は防災や健康などの応用開発と原則論、環境整備が中心だった。米巨大ITによる寡占構造を覆す見通しはない。寡占に挑戦すべきかも賛否が分かれる。永田町主導の政策提言はどこまで斬り込めるか。(小寺貴之)
「こっち(与党)が司令塔となり政府に降ろしていく。日本の勝ち筋を示したい」。自由民主党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム(PT)」の座長を務める平将明衆議院議員は力を込める。同党の「ウェブ3PT」でも座長として政策提言をまとめた。これまでは政府が立案し国会で審議されてきたが流れが逆になる。
政府は2019年にAI戦略第1版を策定した。これを実行したとしても日本が勝てるかどうか分からないと策定メンバーが発言し紛糾した経緯がある。オープンAIのチャットGPTが契機となって再度AIが政策のテーブルに乗り、AIの進化と実装に関するPTが自民党に設置された。
PTでは有識者に日本の勝ち筋を聞いている。千葉工業大学の伊藤穰一変革センター長はオープンAIなどとの提携、ソニーグループの北野宏明最高技術責任者はデータセットや計算資源、基盤モデルの構築と公開、東京大学の松尾豊教授は大規模言語モデルの自前開発を提言した。
数百億円かければ同様の大規模言語モデルは開発可能だ。今後は言語だけでなく、音声や映像などを学んだ巨大な基盤モデルの開発競争になると見込まれる。この競争は10年ほど続く。基盤モデルから生まれた手頃なモデルはさまざまなビジネスに利用されるため、競争に加わるチケット代としては数百億円は安いのかもしれない。
問題は基盤モデルの開発とそれを使うサービスの収益化がプラットフォーマー次第である点。AIサービスは売り上げの1―3割が基盤モデル開発者、1―2割が計算資源をもつインフラ事業者に落ちるとされる。サービス事業者は使用料を払い続ける仕組みだ。
そしてサービス事業者の予算は基盤モデルを開発し続けるには足りない。結果、インフラとサービスをもつプラットフォーマーが寡占する。東大松尾研発ベンチャーのELYZA(東京都文京区)の曽根岡侑也社長は「お金を出せば開発は可能だが市場で勝つ戦略が必要」と指摘する。
プラットフォーマーによる寡占は世界的な問題だ。そこでフランス国立科学研究センターと米ハギングフェイスなどは開発した基盤モデルをオープンソース化している。ただ第三極として急成長したオープンAIは、米マイクロソフトの出資を受けてGPT―4を実用化した。
日本もスパコンのように基盤モデルへ集中投資する道はある。国内で限定公開すれば基盤モデルへの手数料は緩和されるかもしれない。民間に難しい投資を公的資金が担う意義はあり、波及効果は大きい。これは予算配分の問題からAI戦略では選べなかった道だ。
一方で寡占への挑戦自体も賛否が分かれ、提携という道も提案されている。永田町からの提言がどこに落ち着くか注目される。