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“ドル箱路線”の集中投資から軌道転換…JR東海が乗り出す「非鉄道」の稼ぎ方

“ドル箱路線”の集中投資から軌道転換…JR東海が乗り出す「非鉄道」の稼ぎ方

リニューアルしたJR東海の商業施設「アスティ」。生鮮食品などを扱い沿線住民の日常利用を狙う

JR東海が非鉄道事業の強化に乗り出した。フォーカスするのは、駅や沿線の不動産開発。従来は新幹線利用客向けの飲食店などで鉄道事業との相乗効果を生み出してきた。今後は駅施設が目的地となるような開発案件を増やし、沿線住民らの日常消費を取り込み収益拡大を図る。保有資産に乏しい東京や京都、大阪などにある新幹線「のぞみ号」停車駅では新たな土地の取得も進める。ドル箱路線の東海道新幹線への集中投資からの軌道転換が始まった。(名古屋・永原尚大、編集委員・小川淳、大阪・市川哲寛)

「これまでの事業運営のあり方では、将来うまくいかない」。4月1日付で社長に昇格するJR東海の丹羽俊介副社長は危機感を募らせる。きっかけはコロナ禍だ。2020年度の旅客輸送量は新幹線と特急で前年度比7割減、在来線が同4割減。「にぎわっていた新幹線・在来線の乗客が一気にいなくなった」(丹羽副社長)。同年度の決算は全ての利益項目で赤字。国鉄の分割民営化後初の事態となった。

かつてのにぎわいを取り戻し、経営体力を再強化するためにどうするか。丹羽副社長は「より柔軟な発想でサービスを考える」と方針を示す。その象徴となるのが百貨店やホテル、流通・小売りなどの非鉄道事業だ。「これまでは鉄道との相乗効果を目指していたが、沿線住民らをターゲットにするビジネスに取り組む」(金子慎社長)。乗客数に比例して業績が変わる従来のビジネスモデルからの転換だ。

JR各社の中で同様の取り組みで先行するのがJR東日本。コロナ禍で鉄道事業が不調となっても非鉄道事業が稼いだ。22年3月期の営業損益は、鉄道事業の2853億円の赤字に対し、非鉄道事業は1335億円の黒字でコロナ禍前と同程度。一方、JR東海は鉄道事業が83億円の赤字に対し、非鉄道事業が123億円の黒字でコロナ禍前と比べて3割に留まっている。

JR東海は不動産を軸にして非鉄道事業の強化に動き出す。口火を切る存在となったのが尾張一宮駅(愛知県一宮市)。駅商業施設「アスティ」を22年10月にリニューアルしてスーパーや青果店を誘致。日用品や食品など日常生活に必要な商品を取りそろえる。「今までは鉄道利用者のための施設だった。駅で働く人や沿線に住む人にも価値を提供することを軸に据える」と事業推進本部の塩川慎也担当課長は強調する。他の駅でも同様に開発を進める。

これまで同社は保有する土地を有効活用する事業が多かったが、新たに土地を仕入れての開発にも乗り出す。原則として「JR東海が展開するエリア内」(事業推進本部の辻本憲二担当部長)を対象とし、保有土地が少ない東京や京都、大阪などの新幹線のぞみ号停車駅で取り組みたい考えだ。

その第1弾として、京都駅南側にあるホテル跡地を22年夏に取得した。26年度にJR東海グループのホテルとして開業する。金子社長は「土地を仕入れて稼ぐことは難易度が違う。これはチャレンジだ」と意気込む。京都のホテルに留まらず「26年から先に向け、切れ目がないように今から仕込んでいきたい」(辻本部長)考えだ。

JR東海が非鉄道事業の強化を始める背景には、新幹線への投資に一服感が見えてきたこともある。新幹線の収益性は高く、「同じ投資をするならば新幹線に振り向けることが効果的」(同)という観点で、のぞみ号を1時間当たり単純計算で5分間隔で運行する「のぞみ12本ダイヤ」などを実現してきた。大量輸送体制が構築された現在、「何に資本を投下することが最善かを考えると不動産事業が良い」(同)という方針にある。

開発では、貸借対照表における資産の積み上げを意識する。これまでは分譲マンションなどの切り売り型の開発のため、不動産セグメントの資産は減少傾向にあった。今後はオフィスや賃貸住宅、商業施設の開発に取り組む。

JR東海は「新幹線に注力し、それ以外は最低限磨くという発想」「余計なことはやらない文化」とされてきた。新しい分野にチャレンジする機運にも欠けていた。だが、現在では「32年度までに(非鉄道事業の)利益を倍増させよう」と挑戦心にあふれる空気が社内に流れている。コロナ禍による時代の変化に対応し、“新路線”を敷いたJR東海。新幹線に負けないスピードで成果を出していけるか、注目される。

【続き】JR東日本は?…新たな挑戦、業界全体に広がる
日刊工業新聞 2023年03月29日

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