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【ディープテックを追え】農業に微生物を活用。生物多様性を守る解析技術とは?

#127 サンリット・シードリングス

「生物多様性を可視化し、ビジネスにつなげる」。こう意気込むのは、サンリット・シードリングス(京都市左京区)の石川奏太最高経営責任者(CEO)。

2021年に発足した「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が環境破壊リスクを開示する仕組みづくりを始めるなど、「生物多様性」を重視する風潮が欧州を中心に高まっている。そんな中、同社は土壌中の微生物を可視化する。人間には見えない「微生物の世界」をのぞき込み、循環型社会の実現を目指す。

土壌をのぞき込む解析

技術の基は創業者である、京都大学生態学研究センターの東樹宏和准教授の研究成果だ。東樹准教授は生物と環境が相互作用しながら、成り立つ生態系を研究する「生態学」を専門にする。植物や菌類などと環境の関係性を解明することで、生物や森林などの保全に役立てる。サンリット・シードリングスはこの生態学によって得られた知見を社会実装する。

コア微生物を農業資材に活用

地域の土壌から微生物を採取し、解析する(写真は全て同社提供)

同社はゲノム解析を通じて、土壌の生態系を把握する。その中から独自のアルゴリズムで「コア微生物」を見つけ出す。植物の生育に働くコア微生物を農業資材として活用する。植物と共生する微生物を使い、化学肥料の使用量を抑制できるという。従来は把握が難しかった土着の微生物を同社のアルゴリズムで特定し、地域に合った微生物を使う。22年度には岡山県内で使用したところ、コメの収量が1.8倍に増えたことを確認した。このノウハウを使い、農業資材を手がける企業と強化苗を共同開発する。将来は地域ごとに菌の系統を使い分け、農業資材にする。農業資材に使う菌の系統を近いもので統一。製造ノウハウなどを共有できると見込み、製造コストの低減につなげる。

アルゴリズムにもニーズ

コア微生物

同社のアルゴリズム解析の需要も高いという。石川CEOは「今の農業の勘所が実際に合っているのか。それを土壌解析し、データとして確かめたいニーズは多い」と話す。農業における土壌の生態系を把握できれば、その土地に合った微生物を提案するなどビジネスチャンスにもつながる。21年6月に、電気設備工事の老舗ETSホールディングスと提携した。ETSが設計する太陽光発電施設を対象に、サンリットが敷地の土壌解析を行うことで合意。発電効率を維持しつつ、生態系をどう管理するかの設計と評価を実施していく。

石川CEOは「生物多様性を守ることで、いかに産業にインパクトがあるのか。これを解析技術で応えていきたい」と力を込める。解析技術を使い、カーボンクレジットのように生物多様性を評価する客観的な指標づくりを目指す。

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