購入で生物多様性保全に貢献、企業・自治体で広がる「木になる紙」の仕組み
生物や自然資源と関わりが少ないと思える企業でも、コピー紙や封筒の購入で生物多様性保全に貢献できる用紙がある。間伐材を原料に使った「木になる紙」だ。売上高の一部で森林整備を支援でき、自然回復を目指す世界目標「ネイチャーポジティブ」にも貢献できる。佐賀市は全庁舎で木になる紙を導入し、地域振興や脱炭素にも取り組む。
間伐材は森林整備のために間引いた木材。木が密集して幹が細くなった森は荒廃し、土砂崩れなど災害の危険性が高まる。輸入材に押されて採算が厳しい山林所有者に間伐への意欲を持ってもらおうと林野庁九州森林管理局や九州各県、製紙会社が2007年、木になる紙を製品化した。
木になる紙にはコピー用紙や印刷紙があり、売上高の一部を森林所有者に還元する。コピー用紙だと1箱(2500枚)に付き52円が還元金だ。九州の自治体が採用し、農林水産省などの省庁も導入。東日本の自治体や九州電力などの企業にも広がった。
佐賀市も09年から庁舎や市立学校で購入を始めた。20年度までに761万平方メートルの間伐に貢献し、1970万円を還元した。一般社団法人「木になる紙ネットワーク」(東京都文京区)によると、これまでに集まった還元額は総額2億円となり、佐賀市だけで1割を占める。
同市は全部署で木になる紙を購入しているため還元金が多い。通常、環境に配慮した製品の購入は、環境推進部署から始めることが多い。同市は調達を担う契約監理課で木になる紙の購入を決めたため、一気に全部署へ広がった。
また、14年からは佐賀市内で発生した間伐材由来の「佐賀の森の木になる紙」を製品化してもらった。以前は他地域の用紙も調達していたが、地産地消型にしたことで市がコピー用などを購入した資金が、地元の林業振興に生かされるようになった。間伐が行き届いた森の土壌は海の生物の栄養素も作るため、有明海の生態系も向上させて市内の漁業関係者にも貢献できる。佐賀市契約監理課の山口和海課長は「公共調達を使って地域力を高めることができる」と意義を強調する。
さらに同市は、脱炭素にも木になる紙の活用を始めた。整備した森の木は二酸化炭素(CO2)をより多く吸収する。同市は吸収量を取引可能な「クレジット」にする国の制度を活用し、木になる紙の20年度の購入実績からクレジットを取得。クレジットで自らの排出量を打ち消すカーボンオフセット制度も使い、市役所がCO2排出量から25トン分を削減した。公共調達を通じた脱炭素化が評価され、22年末にはグリーン購入大賞(グリーン購入ネットワーク主催)を受賞した。
佐賀市以外でも、木になる紙の環境価値が評価されている。これまで通常の用紙よりも割高なことがネックだった。だが最近、木になる紙ネットワークの肥後賢輔事務局長は、インターネット販売サイト運営会社から価格を下げる必要はないと言われたという。「サイト運営会社は、環境価値があるから値段が高いと説明できると言っていた。また、中小企業が購入しているとも教えてもらった。少しでも環境に貢献したいと考える中小企業が多く、環境価値に見合った価格だと認められているようだ」と話す。
30年までに自然を回復軌道に乗せるネイチャーポジティブが世界目標となった。どの企業にも紙製品は身近であり、調達を変えるだけで世界目標達成に貢献できる。