「想定の2-3倍」申し込みも…MVNOで「eSIM」需要が堅調な理由
スマートフォンなど端末の加入者情報をオンラインで書き換えられる「eSIM(イーシム)」の引き合いが仮想移動体通信事業者(MVNO)間で堅調だ。2月にeSIMの提供を始めたJCOMは、申し込みが「想定の2―3倍」(広報)で推移。オプテージ(大阪市中央区)は、KDDI回線の携帯通信プランの新規申し込みで、約2割がeSIMを選択しているという。相次ぐ通信障害を受け、予備回線としての需要が高まっていることなどが背景にありそうだ。(張谷京子)
eSIMとは、SIMカード(契約者情報記録カード)の機能を端末内に内蔵させたもの。物理的なSIMカードの発行、端末への挿入を行う必要がないため、利用者はより手軽に携帯通信プランの変更や新規申し込みを行える。プランの申し込みから回線開通まで、最短即日で完了できる。
昨今、特にeSIMの需要が高まっているとみられる背景にあるのが、相次ぐ大規模通信障害の影響だ。1台の端末で二つの通信回線を利用できる「デュアルSIM」が障害対策として注目を集めるが、2枚のSIMカードを挿せる機種は限られている。2回線目をeSIMで契約するニーズが広がっている可能性は高い。
MVNO大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)はデータ通信専用のeSIMの申し込みが、KDDIの大規模通信障害があった2022年7月2日に急増した。当時展開していた料金割引のキャンペーンも追い風となり「6月の1日の平均と比べて約8倍の1000件弱に上った」(亀井正浩コンシューマサービス部長)。現在は従来並みに戻っているものの、22年10月には音声通話付きのeSIMの提供も始め「ある程度の数の申し込みをもらっている」(同)状況という。
関西電力傘下のオプテージは、22年8月に始めたKDDI回線のeSIMが「好評で、新規回線獲得にも寄与している」(広報)。2月には、NTTドコモ回線のeSIMの提供も始めた。ソニーネットワークコミュニケーションズ(東京都港区)も23年4―9月期にeSIMの提供を始める予定だ。
eSIMの普及に向けては、元々総務省が19―20年頃から、プラン乗り換えを手軽にして競争を促す狙いで推進。ただ、ドコモやKDDIといった移動体通信事業者(MNO)とは異なり、ほとんどのMVNOはこれまでeSIMを導入できていなかった。
MVNOは、MNOから回線を借りて通信サービスを提供しているため、自社の設備のみでサービスを完結できない。eSIMを提供する体制が整うまでに一定の時間がかかった格好だ。
このため、MVNOによる相次ぐeSIMサービスの提供は、障害対策が元々の目的ではない。ただ、eSIMを使ったデュアルSIMが、障害対策として昨今注目を集めているのも事実だ。KDDIとソフトバンクは、3月下旬にデュアルSIMのサービスを提供する計画。ドコモも同時期に同サービスの提供を目指している。
通信ネットワークが複雑化する中、通信障害のリスクをゼロにすることは困難だ。リスクを最小限に抑えるためにも、MVNOを含む通信事業者は、eSIMなどのサービスをいかに充実させられるかが重要になりそうだ。