産業用一転…ゲームに引き合い、「触覚」再現する鉄の流体の正体
栗本鉄工所が開発した磁気粘性流体「SoftMRF」の用途が広がっている。当初は自動車部品などの産業用途を念頭に開発されたが、「触覚」を再現できるとしてゲーム機を中心としたエンターテインメント分野からの引き合いが増えている。2月中旬にはスマートフォンのアプリケーションと連動したデバイスも発表し、BツーC(対消費者)分野での普及に力を入れる。(大阪・大川藍)
磁気粘性流体は油や水などの溶媒に磁気を帯びる金属材料を分散させたもの。磁場を与えると半固体状態になり、磁性の強さに応じて粘度を調節できる特徴を持つ。栗本鉄工所は100ナノメートルサイズ(ナノは10億分の1)の鉄の粒子を用いて、沈みづらく粘度が安定した流体の開発に成功。抵抗を自在に調節できる特徴を生かし、ブレーキやクラッチといった自動車部品への応用を目指した。
ただ、前例がないためなかなか産業分野での採用につながらず、他の分野を模索。硬さなどの触覚を再現できるとしてバンダイナムコアミューズメント(東京都港区)の仮想現実(VR)ゲームに採用されたことをきっかけに、エンタメ分野から引き合いが来るようになった。
技術の認知度を高め、さらなる用途展開につなげようと企画したのが、サンリオの人気キャラクター「ぐでたま」とのコラボレーションだ。指先に装着するデバイスとスマホアプリを連動し、目玉焼きを模したキャラクターに触れているかのような触覚を実現。2月中旬に始めたクラウドファンディングは1日で100個の販売につながるなど「想定以上に反響がある」(赤岩修一栗本鉄工所技術開発室MRFプロジェクトマネージャー)という。
実績の少ない先端技術の応用は、BツーB(企業間)では「相手先の開発時間を考慮する必要があり、事業化につながりにくい」(廖金孫執行役員)側面もある。栗本鉄工所は同社として初の試みとなるBツーC展開を通じて認知度向上を図った上で、医療分野などの産業応用を目指す方針だ。