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電力ビッグデータから価値あるサービスを生み出せるか

単なる料金徴収から優待、割引き・・。そしてその次は?
 「レストランの優待サービス券があります」「旅行のサービス券があります」―。

 東京都内の三井不動産レジデンシャルの分譲マンション入居者に届けられているサービス情報だ。同じマンションでも住民によって受け取るサービスが違う。家庭用エネルギー管理システム(HEMS)が計測した電力データを分析し、各家庭の生活様式に合わせて配信するサービスを選んでいるからだ。

 飲食店のサービス券は夕食の時間帯に電力消費が少ない家庭に届く。電力データから外食が多いと推測した。逆に夕方の電力消費が多ければ自宅で料理する家庭と思われるので、キッチン用品の割引券を案内する。週末の電力消費が少量なら外出が多いと推定して旅行を、洗濯機の使用頻度が多ければ世帯人数が多いので家族向けサービスを提供する。

 同社は都内の2件のマンションで電力データに基づくサービスを始めた。自社物件購入者の満足度向上のサービスだが、家庭への電力販売に参入する新規電力事業者にも同様のサービスは魅力的なはず。電力以外の付加価値となるからだ。

効果的な時間を選んでスマホで配信


 凸版印刷は、電力データ解析に基づいたマーケティング支援サービスを開発している。東和弘エネルギーソリューションセンター部長は「エネルギーデータから生活行動を予測し、いつ、どの媒体(スマートフォンやテレビ)に情報を送ると効果的かがわかる」と言う。分析結果に従うと、見逃されにくい時間を選んでスマホに配信できる。電力事業者と組んでサービスを提供する事業者にもメリットが生まれる。

 同社は経済産業省の事業に参加し、北九州市の家庭に商業施設への来店を促す実証をした。その結果、分析して情報を届けた家庭は、他の時間帯に情報を送った家庭よりも来店が1割多かった。他の実証にも参加し、合計4000世帯の”電力ビッグデータ“を解析した実績があり、支援サービスの効果に自信をみせる。

 もう一つ、電力データがなくても家庭のエネルギー使用量を推定するサービスも用意した。契約切り替え時の電力料金の推定値を家庭に提案でき、新規事業者の営業ツールになる。「電力データをロジックを使ってどう表現するかがポイント。単純なプラン比較のサービスとは違う」(東部長)と強調する。

 これまで電力データは料金徴収に使われてきた。電力小売り全面自由化は、電力データを価値ある情報に変換するビジネスも生み出そうとしている。

 ※日刊工業新聞では「エネルギー大競争時代」を連載中
日刊工業新聞2016年2月12日1面
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
凸版印刷によると、電力ビッグデータを解析したマーケティングが使われ始めるのはしばらく先のようです。いまは電力完全自由化の認知度アップの段階。次第に電力料金以外で差別化したいと電力事業者が思い始めたとき、解析マーケティングへのニーズが生まれるそうです

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