ニュースイッチ

【ディープテックを追え】半導体「エピタキシャル成長」にイノベーションを起こす!東大発スタートアップの「中間膜」って何?

#123 Gaianixx

「エピタキシャル成長は半導体の中でリソースと時間がかかる。そのため大きな技術革新が起きていない領域だ。我々の技術でイノベーションを起こす」。東京大学発スタートアップのGaianixx(ガイアニクス、東京都文京区)の中尾健人最高経営責任者(CEO)はこう力を込める。

半導体製造において、薄膜成長技術であるエピタキシャル成長。ガイアニクスがこの技術に照準を定める理由は、化合物半導体の台頭だ。2023年以降、化合物半導体である炭化ケイ素(SiC)パワー半導体は電気自動車(EV)の普及に合わせて、インバーターに採用されるなど、採用が広がりつつある。

一方、課題もある。高品質な大口径エピタキシャルウエハー製造が難しい点だ。技術的に成熟しているシリコンに比べ、結晶欠陥が多い。エピタキシャルウエハーの欠陥を減らすことは、半導体デバイスの性能向上やコスト低減につながる。

従来、エピタキシャル成長の工程は「デバイスメーカーによりブラックボックス化していた」(中尾CEO)が、化合物半導体の普及により同社の技術が受け入れられる余地が高まってきた。

基板結晶と成長結晶の間に使う「中間膜」

エピタキシャル成長は単結晶の基板上に新しい薄膜を成長させる。シリコンなど、基板結晶と同じ格子定数を持つ結晶を成長させる「ホモエピタキシャル成長」では、欠陥の少ない結晶が得られる。一方、基板結晶と違う格子定数の結晶を成長させる「ヘテロエピタキシャル成長」は、基板結晶と成長結晶の格子定数の差が大きくなるほど、結晶の欠陥が大きくなる。そこで基板結晶とエピタキシャル結晶の間に中間膜を導入し、欠陥を生じにくくする手法が取られる。

同社の資料を基に作成

ガイアニクスの独自の中間膜は、機能膜と基板の格子のミスマッチを調整し、緩和することで、高品質単結晶化する。仕組みはこうだ。基板結晶と成長結晶の間に独自の多能性中間膜を成膜する。従来の中間膜に機能膜を成長させると、基板結晶と成長結晶の格子定数のミスマッチが残り、歪によって結晶欠陥につながる。同社の中間膜では、格子定数のミスマッチを駆動力に「マルテンサイト変態」による、機能膜に対し中間膜が都度変形する「動的格子マッチング」を生じさせる。これによって結晶の格子の位置関係を壊すことなく、それぞれの格子の距離を伸ばしたり、縮めたりして上部の複数の機能膜でも単結晶化が可能となった。また一層だけでなく、多層の場合も格子定数のミスマッチを解消する。成長させた複数層の材料が単結晶化して、エピタキシャル結晶の品質と欠陥を改善できると見込む。中尾CEOは「我々の中間膜を使うことで、耐熱性や耐電圧を向上できた。歩留まりの改善に止まらずデバイスの性能向上につながる」とメリットを話す。

MEMSから事業開始

開発する単結晶膜(同社提供)

中間膜を成膜した基板をデバイスメーカーへ納入するビジネスを展開する計画だ。まずは微小電気機械システム(MEMS)デバイスで使うチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウムの領域で事業化する。中間膜の性質を生かし、耐熱性を高める。23年中に年産7000枚の中間膜を成膜できる装置を拠点に導入する。その装置を使い、製品化と24年ごろに導入する量産装置の要件出しを行う。現状は4インチから6インチのウエハーで単結晶膜を実現している。今後大口径化の開発を続ける。

また多能性中間膜に合うよう改造した、化学気相成長法(CVD)装置やスパッタリング装置も導入する。顧客であるデバイスメーカーが中間膜だけでなく、機能膜成膜のニーズもあるためだ。ニーズが高まれば半導体ファウンドリーへの委託も視野に入れる。

25年ごろからはSiCなどのパワー半導体の領域へ参入する。まずはSiC基板の欠陥を成長させる結晶へ伝えない役割で中間膜を使う計画だ。将来はシリコン基板の上にSiC結晶を成長させるなど、中間膜を使い基板材料に依存せずにエピタキシャル成長を行えるようにする。

(左から)木島健最高科学責任者(CSO)、中尾CEO、 中野聖大セールスディレクター

中尾CEOは「我々の多能性中間膜は材料、装置、製法、人材の4つの融合が重要だ。そう簡単に真似できない」と強調する。すでに国内特許を40件以上、出願している。今後、海外への事業展開も視野に入れる。エピタキシャル成長という領域に事業を絞る同社。化合物半導体の普及というゲームチェンジを機に、半導体に新たな価値をもたらせるか。

〈関連記事〉これまでの【ディープテックを追え】
ニュースイッチオリジナル

編集部のおすすめ