コロナ禍の大打撃で倒産した先端ものづくり企業、高い技術力も“信頼”築けず
2022年7月11日、光学製品の先端ものづくり企業として知名度を有していた武蔵オプティカルシステムが事業停止し、同月22日にさいたま地裁へ自己破産を申請、8月2日に破産手続開始決定を受けた。
同社は、大手光学機器メーカーを早期退職した持田聰氏が03年8月に設立。OEM(相手先ブランド)製品の製造のほか自社ブランドの「MUSASHI-OPT」製品を展開、3次元測定器、UVレンズカメラのほか、4K・8Kのカメラレンズなど特殊レンズを開発、ハリウッド映画や東京オリンピックにも採用され、19年6月期には年売上高約12億3000万円をあげていた。
しかし精密で高価な設備投資が必要だったため、有利子負債が20年6月期には13億円弱にまで増加。21年5月ごろには大口取引先への支払いサイトが短縮され資金繰りが多忙化し、ファクタリング業者を利用してその場をしのぐ状況となった。 さらにコロナ禍で大きな打撃を受ける。テレビ業界や映像業界からの需要が大幅に縮小し、21年6月期の年売上高は約8億3500万円と大幅減収を余儀なくされた。有利子負債が約14億円に膨らんだほか、中国企業との映画用レンズの大口取引が上海ロックダウンの影響で22年に入り頓挫してしまい、材料費や外注費など2億円のキャッシュアウトが発生してしまう。
同年春、あるファンドから支援の好感触を得る。取引行に対しそれまでのつなぎ資金の融資を求めたが、この間独断でノンバンクを利用した当社に対して取引行が支援を続けることはなかった。売掛金の早期回収、支払い延期、ノンバンクの利用、役員と一部従業員の資金提供で決済を乗り切ってきたが、決済が困難となる事態となり、事業継続を断念した。高い技術力を有していた同社だが、取引行との関係維持、支払い面での脇の甘さがこうした結果を招いたのは残念でならない。(帝国データバンク情報部)
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