ドローン活用救助立ち上げ、NECが米シリコンバレーで新規事業加速
技術シーズ基に構築、公的機関と連携
NECは米国子会社のNEC X(カリフォルニア州)を通じて米シリコンバレーで取り組む新規事業の創出を加速する。2025年度までに起業案件を現行比倍増の20社以上とすることを目指す。直近の成果として、飛行ロボット(ドローン)の活用によって行方不明者などを迅速に救助するスタートアップ「フライハウンド・コーポレーション」の設立を19日発表した。社外の機関や起業家などとの連携が奏功した格好だ。(編集委員・斉藤実)
NEC Xの設立は18年。以降、カーブアウト(事業切り出し)などによるスタートアップの立ち上げはフライハウンドで9件目。近く10件目も設立予定という。
フライハウンドが提供するソリューションには、NEC欧州研究所が開発した技術「SARDO」が活用されている。災害などで発生した行方不明者の位置を30分以内に半径50メートルの精度で特定でき、早期救助を実現する。
同ソリューションはアクティブな携帯電話ネットワークの信号を必要とせず、遠隔地や災害地域での使用に最適。赤外線カメラを搭載した既存の捜索救助用ドローンとは異なり、樹木や建物などで視界が遮られた場合でも位置を特定できるため、地震や洪水による瓦礫(がれき)が散在する環境下でも被災者や行方不明者の居場所を予測できる。
NEC Xは、国内はもとより欧米・アジアに9拠点を構えるNECの研究所の技術をシード(種)としてシリコンバレーに持ち込み、現地のアクセラレーター(加速支援者)などと連携して事業化するのが役割。起業を目指す人材や事業化を支援するアクセラレーター、投資家などとともにプロジェクトを立ち上げ、ビジネスモデルを構築する。起業案件はNECが買い戻して次の中核事業にしたり、株式を取得したりするなど、ビジネスの入り口・出口とも柔軟に対応する。
フライハウンドの場合、NEC欧州研究所が開発した技術と事業仮説を基に、ビジネスと技術に精通した客員起業家(EIR)を探すことからスタート。ニーズを明確にした後、市販のドローンに搭載するモジュールの開発に取り組み、米ニュージャージー州カールスタット消防署など複数の公的機関とともに実証実験を行い、事業化に至った。
フライハウンドのマニー・サーニグリア最高経営責任者(CEO)は19日開いたオンライン会見で「まず公共安全を担う法執行機関向けにサブスクリプション(定額制)型のレスキュー・アズ・ア・サービス(救助のサービス提供)を展開する」と今後の方向性を説明。その上で「米国内には公共安全を担う独立した法執行機関などが1万8000以上に上り、市場規模は年間2000億ドル(約25兆6852億円)ある」と成長性について言及した。
NEC Xの井原成人CEOは「大きな成功を収めることを期待している」とコメント。今後は資金調達と事業成長に向けた取り組みが注目される。