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コロナ禍で名刺交換が激減。岐路に立たされたSansanの転換

コロナ禍のビジネスシーンで最も減ったのが「名刺交換」の機会ではないだろうか。名刺管理サービスを軸に展開していたSansanはコロナ禍により打撃を受けた。しかし、この状況を逆手に取り、2022年にサービスの打ち出し方を「名刺管理」から「営業DX」へと転換。着実に顧客の支持を得つつある。

名刺管理から営業DXへ

Sansanは従業員が交換した名刺をデータベースに登録することで、取引先や顧客情報を蓄積し、活用するサービスを展開している。サービス開始から16年目、契約件数は8722件(※)にのぼる。コロナ禍では名刺交換の機会が激減したため、新規受注案件が減少した。
 しかし、「リアルでの接点がなくなったことによるチャンスもあった」と同社執行役/Sansan Unitゼネラルマネジャーの加藤容輔氏は明かす。導入企業におけるサービス利用率が向上したのだ。出社制限の影響から、オンラインで参照可能な名刺データベースへのアクセスが増加しただけでなく、営業メール配信のためのリストダウンロード件数なども増加。「営業活動におけるデータ活用の必要性が向上し、当社のサービスが名刺管理だけではなく、データベースとして認識されはじめてきた変化を実感した」(加藤氏)。
 もっとも、同サービスは名刺管理を簡単にするというだけではなく、名刺を起点として企業内の顧客データや従業員との関連性などを蓄積し活用するという、営業支援ともいえるサービスを展開していた。この部分によりフォーカスし、営業DXツールとしてサービスを刷新することを決めた。

「コロナ禍で、当社の名刺データベースは名刺情報そのものだけではなく、『接点』も資産だと気付いた」と加藤氏が言う通り、データベースに社員全員が紐づいている点が同社サービスの特徴だ。ここに加え、「導入企業と接点のない企業」のデータベースも利用できるようになったことが、機能面での最も大きな拡張となっている。これまで、あくまで自社内での名刺を蓄積したデータのみの活用にとどまっていたが、今回約100万件の企業データベースを搭載。「いままで接点がなかったけれど新たにアポイントを取りたい」といったニーズにも応えられるようになった。また同社の持つ人事情報が加わることで、データベースはつねに新しい状態に保たれる。

企業データベースの画面イメージ
 企業データ活用による営業DXをサービスの軸に据え、プロダクトの刷新を打ち出したのは22年4月。「鈍化していた新規獲得件数が、それ以降上昇しつつある」と加藤氏は実感を込める。企業データ活用による営業DXをサービスの軸に据え、プロダクトの刷新を打ち出したのは22年4月。「鈍化していた新規獲得件数が、それ以降上昇しつつある」と加藤氏は実感を込める。契約件数は前年同期比6.5%増、契約当たり月次ストック売上高は同7.3%増、解約率は0.66%から0.49%に低下した(※)。

データ活用のハードル

しかし、サービスを導入しただけでは営業現場で使いこなせるようにはならず、営業がデータベースの利点を実感しにくいという課題を抱える企業も多い。これに対し、同社では「(営業担当者の)利用頻度が高い『名刺検索』の動線にいかにデータベース活用への気づきを入れこむか」に注力している。
 例えば、検索した名刺に関連する企業・人事情報や社内でのつながりを併せて表示し、そこから企業データベース活用を促している。また、企業データベース側では業種や業界、決算月など詳細な検索ができるだけでなく、自社との接点情報も同時に確認でき、企業を探しアポイントを取るまでのアクションが効率化される。

名刺検索画面の上部に関連情報が表示される(画面イメージ)

営業担当者の採用が難しくなる中で、一人ひとりのパフォーマンスを上げるためにもデータ活用が重要だと考える企業が増加している。「以前提案して『金額が高い』と言われたクライアントに、今回営業DXとして再度提案したところ『安い』という反応をもらえたことも。データ活用への意識の高まりを感じた」と加藤氏は実感する。
 また、大企業だけでなく中小企業での活用も広がっている。もとから導入企業として多かったIT企業だけでなく、製造業や水産業など業界も多様化。「中小企業では特に『新しい出会い』が減っていて重宝されていると聞く。今までと異なる領域や業界との取引を開拓するために利用している中小製造業の事例など活用が広がっている」(加藤氏)。
 同社としては今後、蓄積されたデータの活用ツール拡張を順次予定している。従来のメールマガジン(メルマガ)やイベントへの集客機能に加え、1月から紙のDMを送付するサービスを追加した。メルマガのコンバージョンは1%程度だが、紙のDMは10%と意外にも高い結果が出ている。「コミュニケーションが全てデジタルだと埋もれてしまう。リアルとデジタルの使い分けができる点が重要」(加藤氏)。
 同社サービスは打ち出し方を「営業DX」としたとはいえ、従来からの強みである名刺報などリアルな接点と企業データベースとの連携で相乗効果を生み出すものだといえる。

※23年5月期第2四半期

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昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
23年5月期第2四半期の決算発表会では、橋本宗之CFOから「Sansanの解約率の低下は営業DXへのプロダクト刷新が支持された結果」という旨のコメントがありました。同社が軸にしてきたことは基本的には変わらないと思いますが、プロダクトの打ち出し方が変わったことでの発展性に期待する向きが高まったのだと思います。

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