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果樹園で気候変動対策「4パーミル」、先進の山梨県が熱心な理由

果樹園で気候変動対策「4パーミル」、先進の山梨県が熱心な理由

閣僚級に混じって4パーミル推進の国際会合に参加し、山梨県の取り組みを紹介する坂内室長(右、山梨県の動画チャンネルから)

山梨県の果樹農園が、ブドウや桃の枝を炭にして土に埋める気候変動対策に取り組んでいる。国際的に「フォー(4)パーミル・イニシアチブ」と呼ばれる活動で、日本で山梨県が“4パーミル先進県”となっている。世界中で実践すると計算上、人類が排出する二酸化炭素(CO2)を帳消しにできる。農業振興にもつながるため他県にも広がっており、企業とも連携できそうだ。

4パーミルは「1000分の4=0・4%」の意味。世界では人間活動によって年100億トンの炭素が排出されている。植物の吸収を差し引くと、大気中に増える炭素は年43億トン。土壌の表層には9000億トンの炭素が存在する。その土壌炭素を年0・4%ずつ増やすと43億トンを吸収できる計算だ。

植物は光合成によって大気中のCO2を取り込み、炭素として体内にためる。燃やすとCO2となって放出されるが、樹木のままだと炭素を固定化できる。炭にすると分解されにくくなって長期間、炭素を土壌に閉じ込めることができる。

山梨県はブドウや桃などの果樹栽培が盛ん。農家は剪定(せんてい)した枝を業者に依頼して処分しているが、土壌に入れると処理費用が浮く。しかも炭には土壌改良の効果もある。県は試験場で炭による果実への影響を調べたが、生育に問題はなかった。また、計算すると桃の剪定枝は10ヘクタール当たり230キログラム発生し、炭にすると炭素を30キログラム貯蔵できると分かった。

農地に草を生やす草生栽培も4パーミルの活動に該当する。刈った草を放置すると肥料になるだけでなく、炭素もとどめるためだ。また、草の根が大雨による土の流出を防ぐため、以前から山梨県の果樹農家の多くが草生栽培を採り入れていた。

県は2021年、4パーミルに参加する農家の農産物を認証する独自制度を創設した。22年8月時点で個人や学校、企業など83件の認証があり、そのうち7件は炭素貯留の実績が認められた。83件が継続すると3年後にはCO2換算で年1万4000トンの炭素貯留を見込む。農家は4パーミルによって気候変動対策に貢献し、認証を得ることで農産物をブランド化できる。

山梨が4パーミルに熱心となるきっかけを作ったのが、農林水産省報道室の坂内啓二室長だ。山梨県に出向していた19年、10代の環境活動家として注目されたグレタ・トゥーンベリさんが、気候変動対策を訴える姿に触発された。「何かしないといけない」とかき立てられ、調べたところ4パーミルに出会った。国連の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で仏政府が提唱し、国際的な推進団体が立ち上がっていた。山梨県は20年4月に加盟した。21年のCOP26で開かれた団体の会合には、各国の閣僚級に混じって坂内室長も山梨県農政部長(当時)として参加した。

また、他県にも呼びかけ21年2月、国内の推進団体「4パーミル・イニシアチブ推進全国協議会」を立ち上げた。新潟県や長野県、静岡県のほか山梨大学や一橋大学、山梨中央銀行、YKB、丸紅など46団体が参加する。

坂内室長は企業との連携に可能性を感じている。脱炭素を迫られた企業が社員研修を兼ねて炭づくりなどを手伝えば、CO2削減や農業への貢献をPRできる。

さまざまな業界に気候変動対策の実践が求められている。4パーミルは農家にとって身近でできる対策だ。企業も調べて見るとすぐにできる活動が見つかりそうだ。

日刊工業新聞 2023年01月06日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
気候変動、土壌改良、剪定枝の処理費軽減と、複数のメリットがあります。認証による農産物のブランド化、企業との連携など、県はさらにメリットを広げようとしています。アナログではありますが、みんなに利益があります。そして気候変動による異常気象を抑えることができれば、果樹の品質も良くなって将来の農家にもメリットになります。

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