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シリコンアイランド再興なるか、"オール九州"で挑む半導体人材育成の行方

シリコンアイランド再興なるか、"オール九州"で挑む半導体人材育成の行方

三菱電機パワーデバイス製作所は10月、熊本高専の工場見学を受け入れた

半導体産業の人材を育成する動きが熊本県を中心に九州で活発化している。国を挙げた半導体サプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化を受け、台湾積体電路製造(TSMC)など半導体メーカーが設備投資を積極化していることが背景にある。高等専門学校は全国展開を視野に新たな教育をスタートし、熊本大学は新教育課程で挑む。オール九州の産学官組織は産業界の現状や将来を見据え、シリコンアイランドの再興を目指す。(九州中央・片山亮輔、西部・勝谷聡、同・関広樹)

産学官連携でカリキュラム、社会人向け講座も視野

半導体産業の人材育成の「拠点校」として認定を受けた佐世保工業高等専門学校と熊本高等専門学校。2022年度から新たな授業が始まり、「学生からは半導体の仕組みや利用状況などを詳しく知ることができて良かったとの感想が多い」(佐世保工業高専)と好評。熊本高専も「半導体に関心を寄せる学生が増えた」と手応えを感じる。

授業で連携する九州半導体・エレクトロニクスイノベーション協議会(SIIQ、福岡市博多区)とカリキュラムを相談しながら進めている。佐世保工業高専では前期70人の受講者のうち、ほぼ全員が後期も受講中。前期は、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング長崎テクノロジーセンター(長崎県諫早市)を見学。後期は九州工業大学と連携してデバイスを製作する。同高専は「初年度のカリキュラムをしっかりとやり遂げ、次につなげていきたい」と23年度を見据える。

熊本高専は10月、3年生が三菱電機パワーデバイス製作所(福岡市西区)を見学した。また企業に依頼して講演会を企画するなど多くの学生に半導体について知ってもらう機会を増やす。ほかにも東京エレクトロン九州(熊本県合志市)と半導体製造装置の機能改良技術に関する人材育成プログラムを実施中。同社の技術者から指導を受け、問題解決に向けた研究開発が進む。

熊本では大学も新たな人材育成を計画し、地域連携を推進する。

TSMCなどが出資する半導体製造会社「ジャパン・アドバンスド・セミコンダクター・マニュファクチャリング(JASM)」の熊本工場のイメージ(JASM提供)

熊本大学は、文理融合の教育課程「情報融合学環(仮称)」を24年度に新設する。統計学やデータサイエンスに関する授業を行い、半導体のほか金融や農業など広い分野で活躍する人材を育成する。

また企業との連携を加速する。産学官金の地域連携プラットフォーム「くまもとDX人材育成プラットフォーム」や熊本県工業連合会との連携を活発化させ、企業と学生の接点を増やす。

データサイエンスに強みを持つ熊本県立大学や、農学部がある東海大学熊本キャンパスとの連携も予定する。

熊本県立大は24年度、総合管理学科に新たに「情報専攻(仮称)」を設ける。熊本県立技術短期大学校も同年度に「半導体技術科(仮称)」の設置を予定する。

自治体も動く。熊本県は産業振興施策の方針「くまもと半導体産業推進ビジョン」を策定中。骨子案にはリカレント教育(学び直し)、企業インターンによる実践型人材の育成支援が盛り込まれた。義務教育における半導体の知識習得、社会人向けの講座開設などの可能性も示唆する。23年3月中に同ビションの発表を目指す。

半導体工場でトップを務めた経験があり、同県の産業顧問を務める今村徹氏は「オール九州で高度な人材教育体制を整備し、海外を含む他地域の人材育成も進めてほしい。結果として移住促進と若者の流出防止、地方創生につながる」と視野を広げた取り組みを期待する。

九州全体の産学官で連携し、人材の育成と確保に向け取り組むのは、3月に発足した組織「九州半導体人材育成等コンソーシアム」。九州経済産業局とSIIQが共同で事務局を務める。SIIQは半導体に関する幅広い業種の企業が会員で人材育成事業のノウハウや実績が豊富だ。

コンソーシアムは22年度、産業の魅力発信、人材像の可視化、即戦力化をテーマに調査や分析などを実施。人材像の可視化は企業ニーズに合った育成手法の検討に生かす。即戦力化では、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)やインターンシップ(就業体験)、リカレント教育など産業界に直結した項目が俎上(そじょう)に載る。コンソーシアムは、企業間取引やサプライチェーン)の強化、海外との産業交流促進にも取り組む。

設備投資の動き活発化 人手不足、強化策がカギ

九州では半導体関連の設備投資の動きが活発化している。三菱電機やロームパワー半導体関連の投資を実施したほか、ソニーグループは24年の稼働を目指し、イメージセンサーの新工場を建設する方針を固めた。また台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場の稼働が2年後に控える。こうした動きに呼応し、半導体関連の地場中小企業も設備投資など事業強化に動き出した。

一方、懸念されるのが人材確保。TSMC熊本工場だけで新規雇用は1000人を超えると見込まれる。政府は半導体サプライチェーン強靱化を図る方針で、全国的に半導体人材の争奪戦が始まっている。半導体関連の投資が活発化する九州では特に人材不足を懸念する声が強くなり、人材育成が地域を挙げての課題となった。

九州経済産業局は、30年の九州の半導体集積回路・製造装置などの出荷額を20年比2倍の3兆円に引き上げる構想を描く。半導体人材の育成強化策を軌道に乗せられるかが、実現のカギを握る。

日刊工業新聞 2022年12月29日

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