中国で「ゼロコロナ」緩和進む、日本経済界への影響度
経済界は中国による「ゼロコロナ」政策緩和の動きに対して期待と不安が入り交じる。11月末から中国全土で国民の抗議活動が起こり、習近平指導部は相次いで緩和策を打ち出した。製造業にとってサプライチェーン(供給網)の要衝であるほか、インバウンド(訪日外国人)需要回復を待ち望む観光業にとっても朗報だ。ただ、今後の感染状況次第で厳格な規制に逆戻りする可能性があり、経済界も当面様子見が続きそうだ。(編集委員・鈴木岳志)
「中国は世界のサプライチェーンにしっかり組み込まれており、大きな影響を持っている。ウィズコロナ(政策への転換)でサプライチェーンがより良い方向へ回転していくことは歓迎すべきだ」と経団連の十倉雅和会長は中国のゼロコロナ政策緩和の動きを前向きに受け止める。
中国・鄭州市の都市封鎖により台湾・鴻海精密工業の巨大工場が米アップルのスマートフォン「アイフォーン」減産を余儀なくされたことはまさに供給網リスクの象徴だ。また、工場内での新型コロナウイルス感染者確認を受けた行動規制などに反発した従業員が抗議活動を展開し、警備部門との衝突にまで発展した。
観光業が地元経済を支える地方も中国の動きを注視している。四国経済連合会の佐伯勇人会長(四国電力会長)は「(日本の水際対策緩和で)インバウンドが増えてきているのは事実なので、ゼロコロナ政策が緩和の方向に行って、中国からもお越しいただけるなら非常にありがたい」と歓迎する。
ただ、日本や欧米の例を見ても規制緩和後の感染再拡大はほぼ確実であり、その時の中国当局の対応が次の焦点となる。日本商工会議所の小林健会頭は「疫病なので緩和して、爆発的にまた感染が増えたときにどうなるか。これはもう一度強権を使って、全てをシャットアウトする方向に戻らざるを得ないだろう」と予想する。
ゼロコロナ政策への抗議活動で、習近平体制を批判する声も一部で上がっていた。ただ、小林会頭は「現地に進出している日本企業などから聞くと、体制の変革が起こるような報告は受けていない」と“政変”の可能性に懐疑的だ。
中国政府の方針転換は国民の不満以外に、国内経済の低迷が背景にある。欧米の景気減速によりよりどころだった輸出にブレーキがかかっており、いまやゼロコロナ政策で冷え込んだ個人消費などの回復に頼るしかない状況だ。
背に腹は代えられない習指導部だが、かつて一度は勝利宣言をした新型コロナの感染再拡大を容認して経済優先のアクセルを踏めるかに日本をはじめ世界が注目している。