ホンダの開発者が明かす、新型SUV「ZR-V」で初めて挑戦したこと
【四輪事業本部ものづくりセンターLPLチーフエンジニア 小野修一氏】
ホンダでは車を企画する時、使う人の気持ちを考え続ける。ZR―Vのコンセプトは「異彩解放」。ターゲットの30代後半から40代の人々は、仕事や育児でやりたいことができない状況にある。その気持ちをこの車で解き放ってほしいとの意味合いを持たせた。
ZR―Vはスポーツ多目的車(SUV)のコア価値である実用性と信頼感に加え、デザインと走りを独自価値として備えている。走りを予感させるデザイン、走りに機能を持たせるデザインを重視した。
外装は流れるようなシルエットとスポーティーな姿を球体のような量感に凝縮した。ヘッドライトは獲物を捕らえるようなシャープな目つきにした。風を通す形状にすることで、車の安定感を高めている。
内装は「使い勝手」「解放」「凝縮」がキーワード。ホンダで初めて「デジタル造形」に挑戦した。人の乗り降りや荷物の出し入れ部分に凸凹を付けて傷を目立ちにくくし、きれいな造形のまま長く使えるようにした。
セダンからSUVに主流が移っているが、SUVは重心が高く風の影響を受けやすい。ZR―Vはセダンのように安定して走ることを目標に据えた。
サイズは「大きいことが良いこと」となりがちだが日本の道路事情を考えた。ただ荷室や乗員スペースが小さいということはない。見た目は格好良く、しかもきちんと使える。
車の「走る・曲がる・止まる」に関わる性能も追求し、ドライバーの意志をくみ取ることを意識した。そして乗員全てに1クラス上の快適性を提供しつつ、路面を捉えしなやかに走る車を目指した。
私は北国出身。全輪駆動(AWD)が役立つ車にしたかった。最も工夫したのが、後輪が蹴り出す力を従来のホンダのSUVより大きく引き上げた点だ。単なるトルクアップでは振動や騒音がつきまとう。リアサスペンション周辺の機構を変更し、力を受け止められるようにした。
AWD購入者は「走りにくい場所を走りたい」との思いを抱いている。それが満たされないのは悔しい。トルクアップにより雪上での旋回性能、登坂性能を高めたので、満足していただけるだろう。
【記者の目/尖った個性で反転攻勢なるか】
好調な国内SUV市場で、ホンダの存在感は薄い。ホンダによると同社のシェアは直近5年で18%から7%に縮小。中型「CR―V」の販売は振るわず、8月に日本での生産を終えた。その跡を継いだZR―Vは半導体不足で日本での発売を約5カ月延期することになったが、各地で試乗会を開催するなど盛り上げを図っている。群雄割拠のなか、反転攻勢につながるか注目される。(江上佑美子)
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