ラピダスと米IBMが先端2ナノ半導体の共同開発で戦略提携、それぞれの思惑
米中ハイテク競争が激しさを増す中、先端半導体の量産を目指すRapidus(ラピダス、東京都千代田区、小池淳義社長)と米IBMは、線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の先端半導体の共同開発と量産に向けた戦略的パートナーシップを締結。日本国内での量産拠点構築に向け動き出した。経済安全保障でも重要なマイルストーンとなる。
ラピダスは米国にあるIBMの研究拠点に技術者を送り、IBMが持つ2ナノメートル半導体の製造技術を学ぶ。学んだ技術を日本に持ち帰ってパイロットラインを構築し、2020年代後半の量産開始を目指す。
13日に東京都内で開いた共同会見。ダリオ・ギルIBMシニアバイスプレジデントは「半導体の高度な生産能力が米国、欧州、日本にはない。生産能力のバランスを取り、分散された仕組みを作る方がサプライチェーン(供給網)の復元力として優れる」と述べ、中国などの地政学リスクを念頭に先端半導体の生産拠点を分散する必要性を説き、日本について「製造装置や素材も強い。技術力に優れ、世界にとり重要なプロジェクトが成功するための素材が備わっている」と評価した。
ラピダスの小池社長は「基本技術はIBMでできており(IBMの)アルバニーで研究すれば十分キャッチアップできる」とし、先端技術の習得に自信を見せた。今後、日本政府の支援を受けながら量産技術を確立する。
IBMは米ニューヨーク州アルバニーの研究開発拠点で2ナノメートルの先端プロセスを採用した先端半導体を2021年に開発済み。「GAA(ゲート・オール・アラウンド)」と呼ぶ、立体構造のトランジスタで、「ナノシート構造」を採用しているのが特徴。魚のひれに似た電界効果トランジスタ(FinFET)のひれの部分を3本のワイヤに置き換えた構造。これをナノシートに展開して、高速処理を低消費電力で実現する。7ナノメートルチップ比で45%の性能向上または75%の消費電力低減ができるとする。
IBMはコンピューターの計算パワーを提供する手段として半導体や量子コンピュターなどの先端技術を世界に先駆けて開発している。半導体ビジネスはケタ違いの投資が必要なため、IBMは半導体の設計は手がけるが、製造はサムスン電子などのファウンドリーに委託している。このスタンスは変わらないが2ナノメートルプロセスの商用化には量産技術を確立せねばならず、半導体製造と材料技術に強い日本勢の代表としてラピダスと組んだ。
米国では国家主導で半導体産業を育成する中国に対抗し、半導体の国産化を促進する法律が成立。半導体の生産や開発に7兆円以上を投じる。IBMは半導体や量子コンピューターなどの研究開発や製造に10年で200億ドル(約2兆7000億円)を投資する。
中国はバイデン政権が発動した半導体の対中輸出規制を不当とし世界貿易機関(WTO)に提訴した。米中競争の主戦場となった半導体。2ナノメートル先端プロセスの確立は日米の経済安全保障の観点でも重要な意味を持つ。
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