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【連載】不撓不屈・カミキ編#03 不況でも顧客をつかむ手袋

【連載】不撓不屈・カミキ編#03 不況でも顧客をつかむ手袋

高機能品は一品一品が丁寧に仕上げられていく

 カミキ(福岡県水巻町)の強みは他社にない製品、まねできない製品を1958年の創業以来作り続けている点にある。バブル崩壊を始めとした数々の不況にも深刻な業績の低迷はなかった。

 70年代に入り、“鉄冷え”の影響で八幡製鉄所が所内で取り扱う製品を半減させると取引各社に通達したことがあった。作業用手袋も対象だったが、安価な軍手から高付加価値の鎖入り手袋まで豊富なラインアップを抱える同社は生き残った。 「『カミキさんは外せない』と何度も言ってもらえたのがありがたかった」と社長の江上壮輔は懐かしむ。特徴がない企業は不況下では生き残ることができないという現実を、この時強烈に認識できたのだ。

 そんな壮輔が一度だけ危機感を抱いたのが2000年ごろのこと。鎖入り手袋の類似品が市場に出回った時のことだ。当初は「性能が全く違うので問題ない」と高をくくっていたが、長引く鉄鋼不況やコスト削減意識で、製鉄所内で使われる手袋が安価な競合品に急速に切り替わったのだ。

 気付けば毎月1500双(セット)以上売れていた鎖入り手袋が3分の1の500双にまで落ち込んだ。主力商品だけに売上高も前年比3割程度落ち込み壮輔を慌てさせた。顧客先を回って性能を訴えるが、長く無事故が続いていた状況では自社製品の優秀性をアピールしても響かない。

 だが幸いにも壮輔の苦悩は長続きしなかった。安価な鎖入り手袋はやはり十分な能力を発揮できず、切り傷などの微災害が目立ち始めた。「替えてみて初めてありがたみが分かった」という声が相次ぎ、ほどなく受注は以前と変わらない状態に落ち着いた。「事故がないのは当たり前。事故があって改めて当社製品が認識される。喜ばしい話ではないのだが」と苦笑いする。以後今日まで、同社製鎖入り手袋に対抗できる製品は現れていない。

 鎖入りや防振、耐熱用といった高付加価値製品は、すべて水巻町の本社工場で一品一品丁寧に製造している。手袋だけで月産1万4000双にのぼる。また足カバー(脚半)も評価が高い。本社工場2階には工業用ミシンがズラリと並び、従業員が黙々と製品を仕上げていく。

 壮輔の娘婿で業務総括部長の安達喜啓は若い従業員たちに気軽に声をかけていく。「高卒社員の採用が続き、平均年齢が若返った。丁寧な作業が要求されるだけに、若手の技術向上やアイデアの具現化を進めている」と胸を張る。メード・イン・ジャパンの誇りがあふれている。
(敬称略、全4回 最終回は6日に公開予定)

※「不撓不屈」は幾度となく困難を乗り越え挑戦し続ける中堅・中小企業を取り上げます。
日刊工業新聞2016年2月4日 中小企業・地域経済面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
付加価値はいろいろな要素で構成されていると思いますが、「他にはない」という要素は当然ながら最大の価値につながります。

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