“203X年の車室内空間”を創造する、ホンダ系部品メーカーの危機感
自動車シートなどを手がけるテイ・エステックが、キャビン(車室)全体の構築に事業領域を広げている。シートに組み込んだセンサーで乗員の健康状態を把握する技術や、音や振動を活用して映画などを楽しめるシートやディスプレーを組み合わせた装置を開発。主要顧客であるホンダなど完成車メーカーへの提案を始めた。背景にあるのは自動車業界で起きているCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった変化の中、部品単体の提案だけでは生き残れないとの危機感だ。(江上佑美子)
「自動車業界では劇的なスピードでビジネスモデルが変わっている」。テイ・エステックの保田真成社長はこう語る。特に影響が大きいと見込むのが、自動運転の浸透だ。ドライバーが運転に要する時間は短くなり、くつろいだり運転以外の作業をしたりできる環境への需要が高まる。
これに伴い部品メーカーの事業環境の変化も加速。保田社長は「シートやドアトリムなどの部品単体で追求してきた技術に加え、光や音などの感覚に訴える車室内全体を提案できる企業になることが成長には不可欠だ」と強調する。
エンジン部品と異なり、電動化などでシートやドアトリムの需要が急減することは考えづらい。それでも従来型の事業モデルでは生き残りは難しいとして種まきを進めている。
既にセンサーで呼吸情報を把握し運転時の居眠りを音や振動で警告するシートや、回転などのアレンジがしやすいシートを開発。安全性向上やリラックスしやすい空間づくりに役立てる狙いだ。
1月には車載HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)技術を持つアルプスアルパインと業務提携。スピーカーや振動デバイスを内蔵した自動車シートや、静電容量技術を用いたステルススイッチを共同開発した。これらの技術を組み合わせた装置「XRキャビン」を作成。今後、両社の国内外の拠点に置き、開発や営業活動に用いる考えだ。
XRキャビンは“203X年の車室内空間”をイメージしている。ただ30年以降の自動車がどのような形になるかは不透明だ。テイ・エステックの保田社長は「完成車メーカーによっても考え方は違う。まずは(開発した)技術に興味を持ってほしい」と話す。
同じホンダ系部品メーカーでは、車体骨格部品メーカーのエイチワンが超小型電気自動車(EV)開発に乗り出した。各社が解を探りつつ、事業の再構築を進めている。