ソニー・キヤノン・富士フイルム…放送機器メーカーが“映像製作DX”へあの手・この手
放送機器メーカーなどが映像制作現場のデジタル化に力を注いでいる。コロナ禍を機に、人の密集を避ける観点で制作現場の人数を減らすことが求められた。また配信方法の多様化に伴い、コンテンツを大量に生産する必要性も増す。こうした潮流を受け、映像制作を遠隔でも行えるようにして省人化や効率化に寄与する製品・サービスが充実しつつある。ただ、放送事業者ごとに制作体制は異なる。サービス提供者は各現場の状況に合わせた提案ができるかが問われる。(阿部未沙子)
自分たちのオペレーションが持続可能なものなのか―。ソニーのイメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部の喜多幹夫バイス・プレジデントは、顧客からこう問われたという。コロナ禍により、多くの人が集まっての作業が難しくなったためだ。
実際に放送業界のデジタル化は進行中だ。ソニーマーケティングの小貝肇B2Bビジネス部統括部長は「インターネット・プロトコル(IP)は全国的な流れ。クラウドは東京や大阪で先行している」と説明。ソニーはオンプレミス(自社保有)の設備とクラウドを組み合わせたサービスなどを展開し、「映像制作業界のデジタル変革(DX)を推進する」(喜多氏)方針だ。
従来、放送業界で多く使われてきたシリアル・デジタル・インターフェース(SDI)は、伝送距離に限界がある。IP化することで伝送距離が長くなり、遠隔地との連携がしやすくなる。
一方、「日本はフルIP化が(海外と比べて)遅れている」(タムラ製作所の石田和好執行役員)との指摘もあり、放送事業者の業務改革は道半ばとも言える。同社はIPに対応した音声調整卓を新たに用意した。
カメラメーカーも現場の省人化に寄与している。キヤノンはリモートカメラを用いた映像制作を提案する。独自のIPで機器を連結することでコントローラーでカメラの撮影方向を変えられ、ズーム操作もできる。
大川原裕人執行役員は「いかに効率よく制作するかが大切」と説く。コロナ禍での遠隔作業の需要の高まりに加え、少人数で、より多くの作品をつくるために同社のシステムへの引き合いが増している。
富士フイルムは同社のミラーレスカメラを使い、遠隔で撮影できる手法を提案している。ファイルトランスミッターをカメラに装着すると、最大4台のカメラをタブレット端末などの画面上で制御できる。一人で複数のカメラを扱えるため省人化に貢献する。
メーカー以外も放送業界のデジタル化を支える。レスターホールディングス(HD)のグループ会社、レスターコミュニケーションズ(東京都品川区)やタックシステム(同)は、米アビッド・テクノロジー(マサチューセッツ州)のリモート編集システムを扱う。
同システムの利用者は、場所の制約なく編集作業ができる。レスターコミュニケーションズの尾崎享社長は「遠隔と集中、いずれにも対応できるようにしている」とし、リモート需要と従来の制作方式の両方を支える。
コロナ禍で制作現場でもデジタル化が加速しているが、現場によって必要とされる従業員や設備の数は変わってくる。それぞれの顧客に合わせた的確な対応策の提案が、放送業界の柔軟な働き方を広めるきっかけとなる。