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工作機械の重鎮、完全引退。新生・牧野フライスの経営戦略は変わるか

牧野二郎社長は約30年間、一過性の動きに右往左往しない姿勢を貫いてきた
工作機械の重鎮、完全引退。新生・牧野フライスの経営戦略は変わるか

残る経営陣からは完全引退の翻意を促されている牧野社長

 牧野フライス製作所の牧野二郎社長(76)が6月22日付で退任する。健康上の理由ではなく、以前から75歳での引退を決めていた。後継者に選んだのは最年少取締役の井上真一営業本部長(49)だ。約30歳の思い切った若返りになるが、牧野社長に若返りの意図はなく能力本位で選んだという。退任後は会長や相談役などの役職に一切就かない意向で、残る経営陣からは完全引退の翻意を促されている。

 牧野社長は1985年に工作機械大手の同社社長に就任し、メーカートップの立場で、日本の高度成長期から現在までの製造業を見つめてきた業界の最重要人物の一人だ。牧野フライス製作所は父・常造氏の創業であり、在任期間の長さが加わり、同社の精神的な支柱だと言えるだろう。それだけに、何らかの役職で社内にとどまるよう求められているのは自然な流れだ。

 ただ、今のところ牧野社長の完全引退の意思は固い。自身の社長就任時は常造氏が取締役相談役、2代目社長で血縁の清水正利氏が会長となり、経営の裁量を巡って悩んだことがあった。井上次期社長に同じ思いをさせたくないとの考えのようだ。

 1月29日の人事発表段階では、新しい経営陣は弟の牧野駿専務(74)を含む現在の取締役で構成される。牧野社長の子息は海外で異業種の大手企業に勤務しており、世襲人事にならなかった。

次期社長は「保守的」な会社のイメージを払拭?


 次期社長の井上取締役は航空機部品の加工機として競争力が高い「MAGシリーズ」の開発に携わった。46歳で開発副本部長に就任するなど早くから頭角を現し、翌年には取締役に昇格した。直近の1年は営業本部長を務めるなど目を掛けられていた。技術分野に近視眼にならず、バランス感覚にたける、営業もできると牧野社長からの信頼は厚い。

 牧野社長は時流に染まらず、長期的視野での経営判断に定評があった。それが保守的だと対外的には思われる面もあったが、牧野社長だからやむなしと受け止められることが常だ。今後、経営体制が変われば、こうしたことは通用しにくい。

 牧野フライス製作所は牧野社長の下に結束した会社だ。井上次期社長には、いかに社内をまとめ上げ、同時に新しいマキノ像を社外に打ち出していくかが、問われる。
(文=六笠友和)
日刊工業新聞2016年2月2日機械面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
工作機械メーカーは国内に大小100社あるとされ、特定分野の専門的な種類の機械を扱う会社も多く、各社の棲み分けがされている。リーマン・ショックでも大手で倒産した会社は数社程度。欧州は事情が少し違う。大手が次々と傘下に収め巨大化の方向。この流れは台湾でも見受けられる。日本では森精機がドイツの名門と統合し、DMG森精機として事業規模を飛躍的に拡大した。牧野フライスの牧野二郎社長は、1985年のプラザ合意の年から30年以上の経営者人生で他産業の盛者必衰や世界経済の乱高下を目の当たりにし、一過性の動きに右往左往しない、本質を把握してブレない経営感を体得したのだと思う。欧州の工作機械業界の合従連衡が一過性だと見ていたかは分からないが、距離を置いてきたように見える。新社長には、必要とあらば先例にとらわれずにそちらにアクセルを踏み込む、そんな大胆さが求められる。(日刊工業新聞編集局第一産業部・六笠友和)

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