ニュースイッチ

防災対策の期待高まる「グリーンインフラ」はビジネスチャンスか

防災対策の期待高まる「グリーンインフラ」はビジネスチャンスか

グリーンインフラ官民連携プラットフォームの西澤敬二会長

自然が持つ機能を社会課題解決に活用する「グリーンインフラ」の普及に向けた機運が盛り上がっている。自然災害が多発しており、緑地を使った防災や気候変動対策への期待が高まっているためだ。企業や自治体、科学者など1500者以上が参加するグリーンインフラ官民連携プラットフォームの西澤敬二会長(経団連自然保護協議会会長、損害保険ジャパン会長)にグリーンインフラの可能性を聞いた。

―グリーンインフラに期待が高まっている背景を伺います。
 「経済一辺倒から持続可能な社会を求めるパラダイムシフトが起きており、特に地球規模の環境問題への意識の高まりがある。日本では自然災害の激甚化、人口減少や少子高齢化による土地利用の変化への対応が急務だ。グリーンインフラはこうした社会課題に複合的な効果を発揮する役割が期待されている」

―グリーンインフラは自治体や企業だけでは推進が難しいと思います。どのような進め方が望まれますか。
 「地域の実情に応じて自治体や企業、NPO(民間非営利団体)、住民などの利害関係者が連携し、長期的に取り組む必要がある。そのために地域での“人づくり”“人の輪づくり”が重要となる。若者も含め『地域社会をどのようにつくり、残すのか』を議論して知恵を絞る機会を自治体が主体となって整えてほしい」

―生物多様性への取り組みが評価される制度が増えています。グリーンインフラと相乗効果はありますか。
 「経団連自然保護協議会の活動で英国や韓国へ行き、世界的な団体や経営者と意見交換した。特に欧州は生物多様性の課題が社会に広く理解され、ルールメイキングや法制化が議論されており、取り組みが進んでいると肌で感じた。12月には世界目標『ポスト2020生物多様性枠組み』が合意され、23年9月には企業が自然に関連した情報を開示する枠組みが公開される。この1、2年の間に生物多様性分野への世界的な大きな潮流が生まれる可能性があり、グリーンインフラの普及に大きな後押しとなる」

―グリーンインフラはビジネスチャンスになるのでしょうか。
 「日本でグリーンインフラに取り組む地域が増え、企業が参画しやすい環境も整うと思う。政府も脱炭素分野への民間投資の拡大策を議論している。産業界としてもビジネスチャンスと捉えて挑戦し、新たな市場が構築できる」

―国や自治体、大企業、中小企業、金融機関、学術機関それぞれに期待する役割は。
 「国や自治体には企業が参画しやすい環境整備をお願いしたい。参入企業が増えれば民間活力によって創意工夫が生まれる。大企業や金融機関は、自らの事業で『何ができるか、何をすべきか』を検討し、経営の中心課題として具体的な行動を起こしてほしい。地域金融機関や中小企業にとってグリーンインフラは地域の活性化対策となる。学術機関にはNPOと連携して成果を科学的に評価し、社会に広く発信してほしい」

―グリーンインフラ官民連携プラットフォームの特徴は。
 「3点ある。まず行政から業界団体、企業、NPO、学識者、個人など多種多様な方々が参画している。2つ目は単なる調査・研究ではなく、分野横断や官民連携によって実践的な取り組みを支援している。そして3点目としては技術の調査・研究、さらには民間資金を活用した金融の検討など、多岐にわたる活動が挙げられる」

―23年2月、グリーンインフラ産業展が初開催されます。
 「新たな産業が芽生え始めていることを広く知ってもらえる機会になれば良い。多くの経営者が気候変動と生物多様性の課題を経営の中心課題として考える機会となってほしい」

緑の力で複数課題解決/気候変動・生物多様性 同時対策

国土交通省はホームページ上に「グリーンインフラポータルサイト」を開設し、グリーンインフラの事例を公開している。

東急不動産などの40階建て複合施設「東京ポートシティ竹芝」(東京都港区)は2―6階にも樹木があり、全体で1700平方メートルが緑地となっている。根や土によって大量の雨水をためることができ、集中豪雨が発生しても道路が冠水するまでの時間を遅らせる。また、豊富な緑は、都市部の気温が異常上昇するヒートアイランド現象を和らげ、働く人のストレスを軽減する機能もある。

緑化したことで利用者が増え、地域に経済効果(東京都内の公園、イメージ)

ほかにも緑地を増やしたことで利用者を3倍に増やした茨城県つくば市内の公園や、避難拠点も兼ねた東京・池袋の芝生公園の事例もある。緑を目当てに訪れる人が増えると周辺の商業施設の集客にもつながり、地域経済に波及効果がある。

これまで緑地の保全と言えば環境保護が目的だった。グリーンインフラなら防災や気候変動対策、都市の魅力向上など複数の目的を追加でき、地域で緑化を進める意欲が増す。環境団体以外の関係者も参加する動機付けともなる。

西澤会長は「世界に目を向けるとNbS(自然に根ざした課題解決)の考え方が主流化しつつある」と語る。このNbSは、グリーンインフラと近い概念だ。海外では経済や政治の主導者が政策議論でNbSを語る場面がある。

背景にあるのが気候変動対策と生物多様性保全を一体的に進めようとする国際世論だ。森林が破壊されると温暖化が助長されて生態系も損なわれるように、気候変動と生物多様性は関連する。個別の対応では限界があり、気候変動と生物多様性の相乗効果となる対策が求められており、自然の機能を使って課題を解決するNbSがキーワードとして浮上した。

6日に始める気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)では防災も議題となる。また、12月には生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催され、世界目標「ポスト2020生物多様性枠組み」が合意される。その原案にも生態系の機能で温室効果ガス排出量を削減する目標があり、NbSやグリーンインフラの出番がやって来る。

さらに新目標では、各国が陸や海の30%を保全する「30by30」の目標値も設定される。日本政府は民間の緑地を活用して目標を達成する。西澤会長が語ったように、過去にないほど生物多様性が注目されている。企業も自然保護への取り組みが問われるはずであり、グリーンインフラ事業への参入も有力な選択肢となる。

日刊工業新聞 2022年11月04日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
家の近所の公園も、芝生にしたことで子ども連れ以外の方も多く訪れるようになりました。植栽の樹木の種類も豊富で、以前とは変わってきたと実感しています。グリーンインフラ産業展(日刊工業新聞社主催)にもご期待下さい。

編集部のおすすめ