医療情報を手元のアプリに、「PHR」一般化へスタートアップ社長の決意
処方された薬を記録した「お薬手帳」を家に忘れたまま薬局に行った経験がある人は少なくないと思われる。harmo(ハルモ、東京都港区)はお薬手帳の電子化サービスを提供する。患者はスマートフォンのアプリで薬の履歴を確認できるため、お薬手帳を持ち歩かなくて済む。同社は小児向け予防接種記録の電子化も展開する。親は接種忘れや前回の接種との間隔を確認できる。
「忘れ防止」だけが電子化の恩恵ではない。ハルモの石島知社長は「医療の質を下げず、効率化するためのデジタル化」と説明する。お薬手帳の情報を共有した医療従事者は処方や調剤を適切にできる。また「飲みやすい」「飲ませやすい」といった患者の主観もデータ化すると、薬局や製薬会社は適切な薬の形状を提案できる。オンライン診療にも電子化したお薬手帳が役立つ。離れた場所にいる医師とインターネット経由で薬の情報を瞬時に共有できるからだ。
ここ数年、医療分野で話題の「PHR」とハルモの事業は一致する。PHRとはパーソナル・ヘルス・レコードの略で、個人の健康や医療、介護の情報だ。通常なら医療機関ごとに記録している情報を個人のアプリに集約することで、急病で運ばれた病院でも適切な処置を受けられる。日常の健康管理や病気予防にも役立つと健康寿命を延ばし、社会全体の医療費を抑制する。お薬手帳はPHRへの変革の第一歩となる。
石島社長は14年、ソニーの社内起業であるお薬手帳の電子化事業に参加。19年のシミックホールディングスへの事業譲渡を経て21年にハルモを設立した。PHRに先鞭(せんべん)を付けたが、1社で独占するつもりはなく「医療の倫理観を大切にする企業とともにルールをつくりながら取り組む」(石島社長)と語る。
学生時代、ビジネスで社会課題を解決する姿を思い描いていた。希望通りか分からないと話すが、「PHRを一般化するところまでいきたい」(同)と決意を語る。