賠償請求3300万円、長巻きトイレ紙特許訴訟で浮き彫りになる知財権の重要性
日本製紙クレシア(東京都千代田区)が大王製紙を相手どって、長巻きトイレットペーパーの特許侵害を東京地裁に提訴した。両社は保湿タイプのティッシュペーパーの特許侵害をめぐって争った間柄であり、いずれも新商品開発に熱心。家庭紙は需要が底堅く、洋紙メーカーからの新規参入も相次ぐ中、日用品分野における知的財産権の重要性が浮き彫りになっている。(編集委員・山中久仁昭)
日本製紙クレシアが自社の特許3件に抵触するとしたのが、大王製紙の「エリエール イーナ トイレットティシュー 3・2倍巻」だ。製造・販売差し止めと廃棄、3300万円の損害賠償を求めた。当該製品は今年4月に投入された。クレシアは特許抵触について「大王製紙と話し合ったが見解が相違した。技術開発への企業努力の継続が阻害されないよう提訴に至った」と理由を説明する。
賠償額の3300万円について業界内には「数カ月の販売に見合う額」「高額ではないため今回の訴訟は警告的意味が強い」との声がある。クレシアは長巻き製品一般について「当社の特許に抵触すると考えられる企業とは話し合い、製造販売中止などの対応をいただいた企業もある」と明かす。
長巻きトイレットペーパーは「1・5倍巻」「2倍巻」といったもので、1ロールでも通常巻きより長いが、高密度に紙を巻くためコンパクト。コロナ禍の巣ごもり需要で20年度の販売額が前年度比20―30%伸びた企業もあり、業界共通の“ヒット商品”とされる。
話題性にも富む。商品購入や取り換えの回数をはじめ、小売店の置き場面積、配送時の二酸化炭素(CO2)排出が減り「消費者、流通、メーカー、地球の四方に良い」(日本製紙関係者)という。
裁判では技術の独自性が問われる。長巻きだからときつく巻くと紙は中心ほど固くなり、柔らかさや吸水性を損なう。ふんわり感を実現するのが紙の表面に施すエンボス(凹凸)で、クレシアの特許の要。同社は21年に通常巻きから撤退、長巻きにシフトした。50件を超す関連特許を持つ力の入れようだ。
家庭紙シェア首位を自負する大王製紙は、クレシアの提訴について「大変遺憾。裁判で正当性を主張していく」とのコメントを出した。商品開発などは他社の知的財産権に留意し「本件も侵害の理由はない」と強調。3・2倍巻に直接関連する特許は現在出願中だ。訴訟終結後に長巻きにかかわる技術を「広く業界全体で使用いただく」としている。
12年には大王製紙がクレシアを相手に、保湿ティッシュの特許侵害を提訴した。クレシアの勝訴で終わったが、今回は攻守が逆転するのか。国土の狭い日本で職人芸的な発想で生み出された長尺ロール。グローバル化が進む中、日用品分野でも知財への意識を高める必要があるようだ。