総合科学研究機構が世界初、充放電中電池のリチウムイオンの運動測定に成功した意義
総合科学研究機構中性子科学センターの大石一城副主任研究員らは、充放電中のリチウムイオン電池内でのリチウムイオンの運動測定に初めて成功した。正極中において、リチウムイオンが熱運動によって移動する速さを示す自己拡散係数を求め、これがリチウムイオン濃度に依存することを示した。次世代電池の材料探索および電極作製法の最適化につながる。東京理科大学、高エネルギー加速器研究機構との共同研究。
イオンの拡散係数は電池性能を決める重要な要素だが、従来手法では電極作製法や充放電状態の影響を受け、材料固有の拡散係数を得るのは難しかった。
そこで、大強度陽子加速器施設「J―PARC」で「ミュオンスピン回転緩和法(μSR)」という手法を用い、充放電中の正極材料のコバルト酸リチウム中のリチウムイオンを調べた。
その結果、リチウムイオンの自己拡散係数は1秒当たり10のマイナス12乗―11乗センチメートル程度と分かった。さらに、この拡散係数は、リチウムイオン濃度の減少に従って増えることを示した。
μSRは、試料に注入されたミュオンが崩壊時にスピンの向きに放出する陽電子や電子を検出することで、ミュオンスピンが磁場を感じて起こす配向変化を求め、物質内部の微小な核磁場の揺らぎや磁気的状態を調べられる。
日刊工業新聞 2022年10月25日