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競合多い車載ヘッドアップディスプレー、マクセルが商用車向けを狙うワケ

競合多い車載ヘッドアップディスプレー、マクセルが商用車向けを狙うワケ

マクセルのAR機能付きHUDを搭載したシミュレーター

マクセルが車載ヘッドアップディスプレー(HUD)事業に力を注いでいる。中国市場で実績を積みながら普通乗用車以外での採用を目指しており、6月に軽自動車やスポーツ車向けを、8月には商用車向けを開発した。小型化の実現によって商用車への搭載を可能にしたが、車載HUD市場には競合も多く、今後も差別化の努力は欠かせない。重要な新規事業の一つと位置付けるHUD事業の成長を加速し、収益源多様化につなげられるか試される。(阿部未沙子)

HUDは、道案内や運転速度などの情報を運転手の視線の先に表示するシステム。運転手に注意を促すことで事故防止につなげる。

HUD市場には自動車用計器などを手がける日本精機やパナソニックオートモーティブシステムズ(横浜市都筑区)、デンソー、独コンチネンタルなどが参入している。2022年には日本精機がポーランドでHUDの量産を独BMWグループ向けに始めた。またパナソニックオートモーティブシステムズは同社HUDが日産自動車の新型電気自動車(EV)に採用された。

自動車関連の企業がHUD市場でしのぎを削る中、マクセルはプロジェクター事業などで培った光学技術を強みとして、13年からHUDの開発を始めた。19年には拡張現実(AR)機能付きHUDを開発したと発表。21年に量産を開始した。同社は21年時点における中国市場でのシェアは50%を達成したとしている。

ただHUD市場では競合他社が多いため、差別化を追求し続ける必要がある。そこでマクセルはトラックや建設機械、バス向けのHUDを新たに開発した。

HUDはフロントガラス前方に道案内などの映像を表示するほか、歩行者を検知する機能も搭載

全日本トラック協会がまとめた「事業用貨物自動車の法令違反別死傷事故の状況」によると、20年の事故の結果に最も影響を与えている違反は、安全不確認が全体の29・1%で最も多かった。HUDの導入により安全確認がしやすくなることで、事故防止に貢献できる。

他方、商用車へのHUD搭載に当たっては特有の課題があった。商用車はダッシュボードの容積が小さいが、マクセルのHUDはダッシュボードに組み込んで使う必要がある。そこで同社は自由曲面レンズや自由曲面ミラーを工夫し、小型化に成功した。

量産時期は検討中だが、すでにトラックのOEM(相手先ブランド)生産メーカー数社から引き合いがあるという。商用車向けHUDの年間販売台数は3万台を目標とする。

商用車向けHUDについて中村啓次社長は「なるべく早く発売したい」とし、早ければ24年の発売を目指す。光エレクトロニクス事業本部AIS事業部HMI設計部の三沢昭央部長は「いつでも量産に対応できるように信頼性の評価を進めている」と語る。円滑に発売にこぎ着けられるかが、新規事業成長の試金石にもなりそうだ。

日刊工業新聞2022年10月20日

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