自動車電動化で主力の市場縮小避けられない、三ツ星ベルトの財務戦略
三ツ星ベルトは5月に中期経営計画を見直し、2023年3月期と24年3月期の配当性向目標を100%に引き上げた。つまり当期純利益の全てを株主還元に回す。その上で、24年3月期までの設備投資額を80億円上乗せする。潤沢な資金余力を対外的に示しながら、株主還元と成長投資のバランスを図る。
中計では24年3月期までに自己資本利益率(ROE)8%、政策保有株式売却額15億円以上という、資本効率性の重要業績評価指標(KPI)も設定。同社は近年、自己資本比率が70%前後で推移しており、財務体質が強い。池田浩社長は「当社は営業利益は良いが、株価が上がらない。今回の発表は、これ以上キャッシュをためず、さらに成長投資するという、市場へのメッセージだ」と明かす。
主力の自動車用伝動ベルトは内燃機関向けだが、自動車の電動化の進展で将来的な市場縮小は避けられず、投資家の期待は低下気味。当然、それに代わる新分野の研究開発投資は強化している。ただこれまで、経営関連の情報開示は最小限にとどめていた。その方針を転換した格好だ。
5月には大株主の英国系ファンドが、取締役報酬増額や自社株買いなどを提案すると通告。同提案は取り下げられたが、「物言う株主」への対応が無視できなくなった面も否めない。ただ今回の資本効率性や株主還元の話は「ファンド提案が来る前から、取締役会で議論していた」(池田社長)。こうした機先を制す対応は今後も重要となる。
ROEはリーマン・ショックの時期を除けば、おおむね8―11%で推移してきた。ただ、ここ数年は自己資本の積み上げにより低下し、22年3月期は7・7%。そのため自社株買いで分母の自己資本を減らすことでも、ROE8%自体は比較的容易に達成できそうだ。
ただ同社はその対応には否定的。「自己資本比率は高くて悪いことはない。基盤がないと思い切って投資できない」(池田社長)からだ。これまでの安定経営を堅持しつつ、市場と対話する考えだ。
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