「EV競争力に疑問符」のトヨタ、専用車「bZ4X」販売再開で巻き返せるか
トヨタ自動車が、電気自動車(EV)戦略の再スタートを切る。このほど、車両とタイヤを固定する「ハブボルト」の不具合で生産・販売を止めていた初のEV専用車「bZ4X」の生産を再開した。26日には国内での受注も始める予定だ。6月の生産停止から、原因特定と対処策に要した期間は約3カ月半。徹底究明で得られた知見を、さらなる「いいクルマづくり」の発射台とし巻き返しを図る。(名古屋・政年佐貴恵、石川雅基)
6月23日、トヨタが国土交通省に届け出たリコール(回収・無償修理)は、取引先や顧客など関係者に衝撃を与えた。不具合の発生箇所が車の構造で基礎的かつ重要な、タイヤの締結部だったからだ。急制動や急旋回を繰り返すことでボルトが緩み、最悪の場合は脱輪する恐れがあるとの内容。周辺からは「モノづくりの力が衰えたのではないか」との懸念も漏れた。
ナットを使わず締結するハブボルトはトヨタとしては新しい部品だったが、すでに高級車ブランド「レクサス」の一部車種で採用されており、問題は出ていなかった。当初は各部品にも不具合は見当たらず、ある部品メーカー幹部は「現場は相当困惑していたようだ」と明かす。
世間で「EVで出遅れている」ともささやかれているトヨタ。生産・販売の停止が長引けば、さらなる臆測を招く恐れがあった。加えて兄弟車であるSUBARU(スバル)のEV「ソルテラ」にも影響を与えた。同車はスバル初のEV。発売後3週間程度で、国内で月150台としていた販売目標を大きく超える約500台を受注していただけに、期待は大きかった。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表アナリストは「デリバリー、ユーザー認知が遅れており打撃が大きい」とみている。
しかし安全・安心に直結する上、「二度と同じことを起こすわけにはいかない」との豊田章男社長の意向もあり、時間より「徹底解明を最優先した」(トヨタ幹部)。設計仕様や品質、評価法の確立、代替部品の量産品質などを徹底的に確認し、原因と対策を突き詰めた。前田昌彦副社長は「いろいろな条件を想定して、本当に大丈夫なのか確認を取るのに時間がかかった」と説明する。
今回の不具合はEV特有ではなく、モーター出力の大きい車両で起こる可能性がある。しかし中西代表アナリストは「トヨタのEV領域での競争力にも大きな疑問符が付いた」と指摘する。前田副社長は「我々の知見が不十分だった」と率直に認めた上で、「少しでもトヨタの安全・安心への信頼を取り戻すことにしっかりと対応していく」と断言する。
トヨタは2030年までに30車種のEVを投入する計画で、現在も複数車種を並行して開発している。今後も「さらなる軽量化や製品品質の向上など、顧客にもっといい性能で出せるのならば(部品設計などを)変えていく」(前田副社長)。モノづくりの底力と攻めの姿勢を維持しつつ、次なるEV投入につなげる。
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