ANAが運航開始、「グリーンジェット」が採用したスゴい環境技術たち
サステナビリティー(持続可能性)をテーマにした全日本空輸(ANA)の特別塗装機「ANA Green Jet(グリーンジェット)」が運航を始めた。燃費改善効果が期待できるニコンと共同開発した航空機用の特殊なフィルムのほか、植物由来の原料を用いた東レの「人工皮革」を座席のヘッドレストカバーに使用するなど、企業との環境技術の協業に力を入れる。環境に対する前向きなイメージを訴求する狙いもある。(編集委員・小川淳)
「オープンイノベーションのような形で日本の技術を総結集した事例として、世界にアピールしたい」。ANAの井上慎一社長は3日の会見でこう意気込みを示した。
米ボーイングの787型機を使用し、ANAのブランドイメージの青から緑に塗装を変えた。当面2機体制で運航。羽田―サンフランシスコの定期便に投入するほか、11月には国内線でも運航する。空気抵抗を低減するため、胴体などの一部に「サメ肌」のように表面に深さ10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の溝を施した「リブレット加工」のフィルムを装着し、耐久性などを検証する。独ルフトハンザ航空での導入実績はあるが、日本の航空会社では初だという。
仮にANAの全機材の表面積8割に導入すれば年間約80億円の燃料費と約30万トンの二酸化炭素(CO2)排出量の削減がそれぞれ期待できる。井上社長は「今後、技術的な評価をした上で全機材への展開を検討する」と述べる。
機内サービスにもこだわりを見せる。植物由来の素材を原料の一部に用いた人工皮革「ビーガンレザー」を2種類使用したヘッドレストカバーを導入した。東レの「ウルトラスエード・ヌー」はトウモロコシやサトウキビ、ヒマを使用しており、植物由来の原料比率を世界最高水準に高めた素材だという。
もう一つは青森県発ベンチャーの「アップサイクル」(青森市)の開発した素材「リンゴテックス」で、リンゴ果汁を搾り取った後の「搾りかす」を原料にする。フードロスの削減や地方創生にも貢献できる。「こうした取り組み自体が日本の社会に活性化をもたらす」(井上社長)と採用を決めた。
このほか、ANAグループとして航空貨物用のプラスチックフィルムについて、双日プラネット(東京都千代田区)と連携し、資源の再循環の仕組みを構築する。
ANAグループは2050年までにCO2排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)にする目標を掲げており、持続可能な航空燃料(SAF)の大規模な導入などを目指している。今回の取り組みは、ネットゼロの目標達成にも貢献する。さらに参加する企業にとっても実機を用いたデータや搭乗者からの反応も得られる貴重な機会となる。今後、さらなる環境関連技術や製品の実証のため、広く企業の参加を呼びかける。