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「研究DX」予算5割増し、文科省が量子で革新狙う

文部科学省の2023年度概算要求で研究DX(デジタル変革)予算は5割増しの629億円になった。22年度の414億円から200億円以上積み増した。人工知能(AI)とデータ、スパコンのDX基盤に量子を加えてパラダイムシフトを狙う。課題はデータを生きた状態に保つデータマネジメントだ。各分野で人材を育てる必要があり、大型計算機への投資のようには進まない。 (小寺貴之)

「スパコン『富岳』を量子コンピューターのシミュレーターとして使う。研究を進める上で向こう数年間は最強の武器になる」と理化学研究所の五神真理事長は自信をみせる。量子コンピューターと古典計算機の最高峰の富岳を開発してきた理研は二つを融合させた量子古典ハイブリッドコンピューティングの基盤技術を開発する。

量子計算の誤り訂正や量子ビットを制御するための高速リアルタイム処理を古典計算機が実行する。量子と古典を合わせたシステム全体で最高性能を発揮するよう設計する。

そしてデータやAI技術と組み合わせて、未来を予測し制御する科学を開拓する。理研の運営費交付金の新規枠として73億円を要求した。文科省の西山崇志基礎・基盤研究課長は「AIとデータ、スパコンのDX基盤に量子と数理を加えてパラダイムシフトを起こす」と力を込める。

文科省はマテリアル分野をモデルケースとして研究DX政策のひな形を作ってきた。電子顕微鏡や分析装置など、全国の大学に散らばる先端計測機器を束ね、データを集めて活用しやすいように整理する。データはAIに学習させて分析支援ツールとして共有する。

大学間の連携だけでなく、大学と産業界のデータ連携につなげる試みだ。

江頭基参事官は「企業が自社のデータを社外に出すリスクを冒さずに、公的研究データと融合させてAIに学習させる環境を整える」と説明する。23年度は127億円と22年度の75億円から7割増を要望した。研究環境整備を産業競争力の強化につなぐ。

課題はデータを預かる専門職の育成だ。物質・材料研究機構は先行して人材を配置してきた。理研は新事業で数十人規模の専門職を設ける。AIとマテリアルやAIとバイオなどの両方の専門性を持つ人材がデータを整える。ただ大学などは道半ばだ。そこで国立情報学研究所が体制整備を支援する。このための予算も拡充する。データは放っておくと陳腐化する。研究DXを進化させ続けられるか注目される。

日刊工業新聞 2022年9月13日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
研究DXは小さく生んで大きく育てる政策サイクルが回っています。ただ方法論がまだ確立していない中で、量子を加えるのはどうなのかと思ってしまいます。パラダイムシフトするほど、パラダイムが固まっていないように思います。量子は先端研究の旗印であって、まだ研究ツールにはなっていません。とはいえ、いまから先々のことを仕込んでおくのは大切です。研究DXの専門職は量子コンピューターへの期待を膨らませながら、データ整備や研究システムを設計していくことになります。理研はパラダイムシフトを前提とした研究DXの方法論を確立しうる数少ない研究機関になるはずです。研究管理職の新しい姿を示してくれるのではないかと思います。

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