東大が“光がん治療”要素技術を開発、光で薬剤放出・がん細胞攻撃
東京大学の石井和之教授らは、患部に集めた複合体に光を当て、薬剤を放出してがん細胞を攻撃する「光がん治療法」の要素技術を開発した。室内の光では変化しないが、赤色のパルスレーザーが当たった場合に分子内の構造の一部が切れ、がんの薬剤として働く金属複合体を作製。必要な場所とタイミングで薬剤を供給する「薬物送達システム」の開発が期待される。
成果は21日、国際科学誌ケミカル・コミュニケーションズ電子版に掲載された。
赤色の光を吸収する環状化合物「フタロシアニン」にアルキル基を持つ有機金属錯体を組み合わせた「有機金属フタロシアニン」を作製。赤色のナノ秒(ナノは10億分の1)パルスレーザーを複合体に照射すると、細胞が自殺する「アポトーシス」を誘導するアルキルラジカルとアルデヒドなどの薬剤を放出できることを明らかにした。
ヒト由来のがん細胞を使って複合体の効果をみると、特定の濃度の条件下で光を当てた際にがん細胞を殺す効果を示した。またアルキルラジカルなどの放出が細胞死の一因であることが分かった。
一般的な光がん治療法では体の内部に届きやすい赤色の光を当て作られる活性酸素でがん細胞を攻撃する仕組みが使われている。だがアポトーシスの誘導が難しいことと、がん組織では酸素濃度が低く治療効果が低いなどの課題があった。
日刊工業新聞2022年9月21日