住宅地31年ぶり上昇…コロナ禍が地価に与えたインパクト
国土交通省が公表した7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)は、全国の全用途平均が前年比0・3%上がり3年ぶりの上昇となった。電子商取引(EC)向け物流施設の需要が堅調な工業地は、5年連続で上昇した。また多様化する働き方を背景に、オフィスのほか住宅の需要が拡大。コロナ禍による下落の反動もあり、住宅地は31年ぶり、商業地は3年ぶりに上昇に転じた。経済活動の回復が進んできた。(堀田創平)
【商業地】個人消費持ち直し、店舗需要が回復基調
商業地は個人消費の持ち直しを背景に、店舗需要が回復基調に入った。堅調なオフィス・マンション需要も加わり、全国の平均変動率は0・5%と3年ぶりに上昇。再開発事業が進む都心や地方都市では、利便性や繁華性向上への期待感も地価上昇に寄与した。併せて国内からの来訪客が回復した観光地や繁華街でも、地価が上向くところが出ている。
東京・銀座の「明治屋銀座ビル」は0・5%下落したものの、17年連続で全国の最高価格を付けた。会食需要の減退で店舗の収益性は低下しているが、2021年の下落率3・7%より下げ幅は縮小した。「インバウンド(訪日外国人)需要は消失したが、国内客は戻りつつある」(国交省地価公示室の小野寺卓室長)ことから、地価下落に歯止めがかる可能性もある。
同じく国内客の回復がプラス要因となった東京・浅草は、21年の1・7%下落から4・3%の上昇に。神奈川県の鎌倉市や箱根町も上昇に転じており、強いブランド力を見せつけた格好だ。半面で岐阜県高山市や大阪・道頓堀は下げ基調から脱せないまま。下げ幅は縮小しているが、インバウンドの影響が大きく回復に遅れが生じているようだ。
3大都市圏や地方4市で目立つ再開発事業も、地価の回復に一役買った。その一例が、千葉県木更津市が進める多機能複合型の都市構想「かずさアクアシティ」だ。商業施設や住宅整備に伴う発展に期待が高まり、19・8%の地価上昇をもたらした。「天神ビッグバン」に続く再開発「博多コネクティッド」に湧く福岡・博多も地価上昇が続く地域だ。
働き方改革や優秀な人材確保に向け、特に東京圏で活発なオフィスの拡張・移転需要も地価の回復をけん引した。JLLリサーチ事業部の大東雄人シニアディレクターは「環境性能に加え、働く人の快適さや健康にまで配慮した物件の人気が高い」と話す。こうした物件は賃料も高水準となる傾向が強く、地価上昇の一因となるとの見方もある。
【住宅地】全国平均変動率0.1%
住宅地は全国の平均変動率が0・1%となり、31年ぶりに上昇に転じた。コロナ禍で落ち込んでいた需要が回復。都市部など生活利便性の高い地域を中心として、地価が上昇した。低金利や住宅取得支援施策の下支え効果も表れたようだ。コロナ禍で多様化した働き方で暮らし方も変わり、需要が増した郊外に地価上昇の波が広がる傾向も強くみられる。
上昇率29・2%で全国1位となった北海道北広島市は、繁華性向上への期待が地価上昇の呼び水となった一例だ。プロ野球球団「北海道日本ハムファイターズ」が建設中の新球場を中心に再開発が進んでおり、商業地との競合も多い。札幌市に近い立地も好感され、近隣の江別市や恵庭市などにも需要が波及。上昇率の上位10地点すべてをこの地域が占める結果となった。
コロナ禍で定着したテレワークやリゾート地で働く「ワーケーション」の浸透も、地価に影響した。首都圏では都心部への交通利便性が高く住環境もよい湘南エリアで転入者が増え、神奈川県茅ケ崎市の地価は5・9%上昇。これまでは高所得者層の別荘地需要が主体だった長野県軽井沢町も、移住や2地域居住といった需要が増え13・4%上昇した。
首都圏のマンション人気も根強い。不動産経済研究所によると、22年1―6月に首都圏で販売された新築分譲マンションの契約率は好調の目安となる7割を上回った。平均価格も6511万円と上半期では過去最高の20年に次ぐ水準で、松田忠司主任研究員は「在宅勤務などが広がり、交通・生活利便性を備えた郊外物件が注目されている」とする。
最近では、共用部にワークスペースを設けた分譲・賃貸マンションも人気だ。住まいにおけるワークスペース設置は注文住宅が先行していたが、テレワークの浸透で分譲マンションや賃貸マンションにも拡大した。オフィス勤務と組み合わせた“ハイブリッドワーク”も定着する中で、マンション大手は新たな住まいの形を追求している。