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公共空間にARを カシオ小型プロジェクターの挑戦

2021年9月の販売開始から1年―。カシオ計算機の組み込み型プロジェクター「組込専用プロジェクションモジュールLH―200」に、これまでにない新たな用途が見込まれている。従来は、建物やシステムソリューションにプロジェクターを組み込むことによって、スマートファクトリーやスマートビルディング、スマートホームなどの領域を中心に訴求してきた。今後は産業用途以外にも、商業施設や公共空間など幅広く展開し、プロジェクターを用いた拡張現実(AR)の世界を広げていく。

OA機器の枠を越える

「LH―200」はレーザーと発光ダイオード(LED)を組み合わせたハイブリッド光源のプロジェクター。消費電力が少なく寿命も長いため、幅広い用途展開が見込める。筐体(きょうたい)は、幅215mm×高さ43mm×奥行き152mmのA5サイズで、小型ながら、2000lmの明るさを実現する。重さは約1.0kgと軽く、簡単に取り付けられる。

カシオ計算機によると、体積あたりの明るさはクラス世界最高を実現したという。共通の光学エンジンを用い、ビジネス領域向けのラインアップも展開中。カシオ計算機のプロジェクション企画開発部商品企画室の増田弘樹室長は「小型で明るいという強みを生かした、我々の製品ならではの領域へ用途展開している状況だ」と語る。

カシオ計算機株式会社羽村技術センター開発本部イメージング統轄部プロジェクション企画開発部商品企画室室長 増田弘樹氏

昨年の発売以降、製造現場での作業支援ガイドやロボットピッキング、公共空間での行動支援ガイドなどの用途展開を中心に、組み込みプロジェクターとして活用提案の幅を広げてきた。

カシオ計算機では、03年からオフィスや学校などで用いられる事務機器(OA)商材として、プロジェクターを開発、販売する。当初から小型・軽量を強みとしていたが、10年に技術革新が訪れる。レーザーとLED、半導体光源を使うことで2000lm以上の明るさを実現するプロジェクターを開発した。

新光源が照らす新たなる可能性

当時は一般的にプロジェクターの光源には水銀ランプが使われていた。ただ寿命の短さに加え、設置場所の制約もあった。その打開に向けて技術開発を進め、水銀ランプの課題を解決し、レーザーとLEDを組み合わせたハイブリット型の新光源プロジェクターの開発を実現した。

21年には、プロジェクターの新たな使い方を模索する新事業として事業転換を図り、「LH―200」を市場に投入した。プロジェクターを建物やシステムに組み込むという新たな提案方法を見出した。カシオ計算機の増田弘樹室長は「パソコンの画面をスクリーンに拡大投影する従来の使い方にとどまらず、明るい光を床や壁に投映し、現実空間にある物体に重ねることで、効率化、利便性だけでなく、安らぎなど、新たなプロジェクターの価値の可能性を探り、広げていきたい」と語る。

組込専用プロジェクションモジュール LH-200

道路社会実験に導入へ

カシオ計算機が新たなプロジェクターの活用方法を模索する中、そこに着目したのが、humorous(ユーモラス、東京都目黒区)の田村勇気代表だ。元々広告代理店に勤務し、映画やドラマ・ドキュメンタリーの制作に携わってきた。得意とする映像や照明の演出をコンサートやイベントなどのエンターテインメントの世界に留め置くのではなく、交通安全など社会課題の解決につなげたいとの思いがある。

国土交通省が民間に対して初めて公募を実施した道路社会実験のアイデアとして21年に提案が登録された、「公共空間デザインプラットフォーム ZONE®」という、交通トラブルや心理的ストレスのかかる場所を一新させるような社会インフラ事業を提案。登録団体全国9社のうちの1社となっている。複数の企業や有志のクリエイター、大学研究者らと課題に応じたプロジェクトチームを結成する。未来型のスマート街路灯やハイテク塗料に加え、プロダクトやデザインによる知的財産(IP)を研究開発中だ。地域の課題解決のために、これから自治体や賛同企業と実証実験を開始する。

映像や照明を使うクリエーティブ表現の手段として欠かせない選択肢がプロジェクターだ。スマートシティーを見据えたスマート街路灯の設置を目指す中、偶然カシオ計算機の「LH―200」を新聞で目にした。それをきっかけに実証実験で導入するべく検討を重ねている。

株式会社humorous代表取締役 田村勇気氏

クリエーティブ表現で事故防止

交通事故は発生しやすい場所の傾向があることなどが、統計上示されている。これまでは事故防止に向けた対策として、注意喚起や取り締まり強化の選択肢しかなかった。新たな課題解決策として、歩行者に向けて停止を促す映像やデジタルアートを投影するなど、クリエーティブ表現で一石を投じようとしている。自治体からの関心も高いという。

田村代表は過去にも大学構内で実証実験を実施した。構内を出ると一般道路に面した危険なエリアで、出入り口付近にやぐらを建ててデジタルアートなどを投影した。最初は驚く学生もいたが、評判は上々だった。「デジタルアート見たさに止まりたくなった」「空間として楽しい」など好意的な声が多く、実験対象者の9割が実用化を望んだという。

映像投影には重量のある大きな照明を使用したが、実際に道路で歩行者の頭上に重量物を設置することに安全上の問題を感じ、普及させていくのは難しいことに気づく。偶然見つけた小型軽量で明るく、消費電力も抑えられるカシオ計算機の「LH―200」が自身のプロジェクトに大きな可能性を与えてくれると感じた。現在は年中通して、屋外でインフラとして使用できる街路灯をイメージしながら交通課題の解決に向けて、プロジェクトを推進している。

クリエーティブ表現という目的に対して、プロジェクターを手段に活用する。田村代表は「今までにない発想でカシオ計算機と協業し、プロジェクターの新たな用途展開につなげたい。さまざまなジャンルの皆さまとの共創を目指す」と語る。

カシオ計算機の増田室長は「プロジェクターの可能性が広がると考えている」と将来を展望する。これまで産業用途を中心に提案してきたが、公共空間での活用が広がる未来を予測する。

プロジェクションARの世界を広げる 組込用プロジェクションモジュール

カシオ計算機株式会社
 〒151-8543 東京都渋谷区本町1-6-2
 代表TEL:03-5334-4111
 https://www.casio.co.jp/

株式会社humorous
 https://humorous.jp/

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